植物生活編集部 植物生活編集部 70ヶ月前

Botanical TRIP 私の好きな、地元のこと。#03

アーティストがインスピレーションをうける場所。 
海外、街、自然、いろんなものごとに刺激を得ながら
創作を形にしていく過程。
その源を探る旅に出てみます。
フラワーアーティストが「自分を作り上げた、地元」をたどる旅。
その名も「ボタニカル・トリップ」
まずは、静岡県出身のフラワーアーティスト
後藤清也さんに地元を旅してもらいます。
 

Botanical TRIP vol.3

03/静岡県「製茶問屋 白形傳四郎商店」<前編>


日本一の茶どころ静岡県。
今回の舞台は、静岡の中心市街地から1kmほどのところにある茶町。
駿府城の城下町であるこの地域は、当時茶商が集められたことから始まり、現在も茶産業の集積地となっています。
江戸時代に創業し今なお健在の茶商もあるという。
徳川家康公が過ごした駿河。
隠居して駿府城に入城した家康公は、茶を楽しんだそうな。
そんな400年の茶文化を誇る茶町のその味わいを、後藤さんが全身で感じていきます。





荒茶の取引 静岡茶市場

私たち消費者がお茶を手にする、その少し前の段階から覗いてみることに。
案内してくれたのは、製茶問屋 白形傳四郎商店の武田さんです。

まずは『静岡茶市場』。建物の屋根は茶畑の畝を表していてとても印象的。
ここでは、静岡県内はもとより、各県の荒茶が上場されています。


売手(農協・生産者)と買手(茶商工業者)をつなぐ取引所です。
毎年4月下旬から5月の連休明けくらいまで、製茶問屋の活発な仕入れで早朝から賑わいます。

今年の「新茶初取引」は4月18日。
例年より一週間ほど早い異例の年なのだそう。
期間中は毎日取引が行われるが、雨の日はお茶が摘めないため、翌日はお休みです。


写真右から今回案内をしてくださった白形傳四郎商店の製造部部長、武田好訓さん。隣が営業企画部、白形和之さん。




茶市場で取引されているお茶は、生産者が茶葉を摘んだ後、荒茶工場で加工したもの。
蒸して、揉んで、棒状にし、水分量を5%以下にし、発酵を止めた状態にします。
それを荒茶といい、荒茶はまだ半製品の状態です。





静岡茶市場の最大の特徴としては、その取引方法が「相対売買」を主としていることです。
茶市場職員を仲介として、親値から値切りの交渉をする値押しがはじまります。

売手と買手の直接値段交渉。
そして、値段・条件などが決まると手合(てあわせ)。

三者による、シャン!シャン!シャン!の三回の拍手で商談成立の証。
これ以降のキャンセルは絶対にご法度とのこと。
まるで神聖な儀式のようです。



茶市場内で取引をする際は、帽子を着用しなければなりません。
売手→緑、買手→青、茶市場職員→黄。

実はこの帽子、売買の権利を有しており、重要な契約が交わされた代物で、とても高価なものなのだとか。
この日ご一緒した白形傳四郎商店さんは、3つの帽子を所有しているといいます。


青い帽子を被った後藤さん。野球少年のよう
 

茶葉選び

8時30分。取引開始のベルの音が響きます。
県内産取引は少し前、6時30分から行われており、今鳴り響いたこのベルは、県外産の取引開始の合図。

入場すると、地名が目に入ります。
親値を付けた茶葉が産地ごとに分かれ、見本展示。





青い帽子の茶商たちはすでに目星を付けており、そこに向かいます。
拝見盆のお茶をじっと見つめ、触れ、嗅ぐ。色と形、手触りと香り、艶と濃さ。
全身の意識を茶葉に集中させて。

良くない特徴としては、粉っぽい、軽い、ガサガサ、ふわふわ、という感じ。
反対に、艶々、サラサラ、ズシッと重く。
そう感じられるものが良い条件です。
香りは、茶葉に鼻をうずめるくらいに密着させて。まるで茶葉を食べているかのように。






後藤さん、香り、手触りを確認。「なるほど。」と、なにやら納得の表情
 


茶商たちはいったい、茶葉の何を見ているのでしょうか。
まず一番は、欠陥が無いかどうか。
蒸れやカビが無いか。
次に、火の入り具合。
どれくらいの強さで入っているか。
あまり青臭いとふかしが若いのではないかなど。
そして、欲しい値頃感と量との比較。

相対だからこそ、売手に好みを言うこともできるのです。
茶商たちの鍛え抜かれた五感で、厳しいジャッジを施します。



後藤さん、かなりアグレッシブな茶市場事情を知り、お花のセリとも比べている様子



茶葉に向かい合い、本当はじっくりと吟味しながら買いたいところですが、皆並んでいるため、見て10秒くらいで判断しなければなりません。

そしてすぐ次のテーブルに行き、また見て、すぐに判断。
じっくりと考えていたら、他の茶商に横から持っていかれてしまいます。
4~5人で来ている茶商は連携プレーで交渉まで行っています。

昔の茶市場はあちらこちらで取り合いの喧嘩があり、見ているとはじき出されることもあったそう。




お茶の審査

茶葉を選ぶとその次は、審査を拝見へ。

いよいよ味覚も使う時。
茶碗に熱湯を注ぎます。
熱湯はお茶の特徴(香り・味)がよくわかり、同時に欠点もよく出るといいます。
まずはすくい網で茶葉をすくい、香りを鑑定。



自ら「犬の100倍鼻が利く」と語る後藤さん。香りの違いを敏感に感じ取ったよう




ここでの判断基準は何か。
まずは香りから。欠点が無いかどうか。
蒸れているような香りや煙みたいな香り、傷んでいるような香りがしたらダメ。
それが無いかどうかを確認した上で、お茶が持っている特徴、その品種の香り、ふかし具合、みるっぽさ(未熟さ)がどのくらいあるかなど、それらの点を見ています。







次に、茶葉を見ます。
ふちが赤くなっているものは霜にやられています。
葉脈が変色していないか、傷んでいる葉が無いかなど。
迷彩柄のようになっているものも良くありません。
さらに次に見るのが水色(すいしょく)。
茶葉を取り除いた後のお湯の色。黄色や緑だったりする中で、傷んでいると赤っぽく出ます。

ふかし具合で色の濃さも違ってくるのです。



そしてようやく味を見る。
まずはここでも欠陥が無いかどうか。ふかし具合や、ちゃんと味が出ているか、香りと味とが合っているか。

後藤さん、味の違いにも鋭く反応。煎茶と深蒸し茶の違いに「深蒸し茶は、草むらに寝転んでいる感じ」なのだとか。後藤さんならではの世界観。表現の仕方は人それぞれで良いのだそう。香りの特徴のイメージからも味を確認



どのお茶を先に口にするかでも違ってくるし、一口目と二口目でもまた全然違うといいます。
朝6時前から始まっているため、茶商たちは朝食を食べずに来ます。
この周辺には、茶市場で取引を終えた茶商たちが通う食堂がいくつもあり、早朝より営業しているようです。
ツケも可能なのだとか。

親値を考えつつ品質を確認しながら拝見を終えると、戻って相対、値段交渉へ。
取引はそんな流れを踏んでいます。

 

茶商の技術 仕上茶工場

静岡茶市場を出発し、次なる目的地へ。
この界隈には約300軒の茶業関連会社があるのだとか。
茶町ならではのお茶の香りを感じながら歩いて5分ほど。
訪れたのは、90年以上の歴史のある製茶問屋 白形傳四郎商店さん。
ここで行うのは、茶市場で買い付けた荒茶の仕上げ作業です。
ここからが茶商の技術の見せ所。



お茶をブレンドすることで、それぞれのお茶屋さんの特徴が出るのです。



30㎏のお茶、軽々と担いでくれた後藤さん。頼もしい華奢な体

 

工場内も引き続き武田さんがナビゲート。

茶市場で仕入れた荒茶は、重さ30kgの塊で入荷され、温度3度の冷蔵庫で保管します。

秋まで置いておくお茶は、マイナス20度の冷凍庫での保管となります。

 

冷蔵庫から出て向かいの仕上げ工場へ。

その日に仕上げる分は、前日に冷蔵庫から出し、常温に戻し準備しておきます。
そして朝から作業にかかるのです。


 

段階の選別


機械音が響く工場内。
まず、色彩選別機で茎と毛葉(けば)を除いていきます。
茶葉は緑、茎は黄色。



機械の中のセンサーが色を識別し、エアーで茎をはじき飛ばします。
茎は茎茶になるという。


除去された部分の使い道を気にかける後藤さん。それらはティーバッグの原料になるなど、お茶には捨てるところがないとのこと




次の機械には、大きさの異なる網が4つ入っており、茶葉を大きさにより分類します。

分かれた茶葉は、一番細かいものはどろっこ、次に粉、本茶、そして一番大きいところを頭といいます。

これらが混合していると、この後の火入れの工程で火ムラになってしまうため分離しておきます。






そして次の工程で、風を送ります。
上から茶葉が降りてくると、軽い葉や毛葉が飛んで、残りは下に落ちます。
毛葉は本茶に混ざると苦味や雑味の原因になるためなるべく取り除きたい。
さらに、静電気の力で選別。
本茶と茎とでは水分量が異なることを利用し、静電気で軽い(水分量の少ない)方だけを吸い付かせて、はじいていきます。



このように、色の違いと静電気の力、この2段階で茶葉を選別していき、最後には唐箕(とうみ)でもう一度毛葉を飛ばすのです。




火入れとブレンド

そして次が、お茶の味を決めるという火入れ。

火加減の調整は、バーナーの温度と茶葉を流す量、回転速度、さらに風をどれだけ逃がすかによるのです。

さまざまな要素を取り入れて、そのお茶に一番合った火の入れ方をします。
例えば、火を強く入れたいが焦したくないときはゆっくりと流し、風は少なめに。

荒茶の段階で蒸しが若い場合などは、火は強めでカラッと上げる。

ここで茶葉の水分量は3%以下に。
温度の上げ下げはお茶の様子を見ながら5分おきくらいに行い、煎茶の場合は15~20分ほどじっくりと火を入れます。

いかに早く当たりをつけて、安定して流すかが肝に。



同じお茶でも天候の影響も受けるため、設定はその都度変更。

この場所にいるとお茶の匂いで麻痺し、どんどん火を強くしてしまう恐れがあるため気を付けているそうです。
一日に400~600㎏ほどを仕上げているとのこと。




次の工程は、茶商の技術の要。ブレンド。合場(ごうば)へ。
火入れまでの工程を経た茶葉は、合機(ごうき)に入ります。

中には羽があり、45分間回すと1tの茶葉がまんべんなくブレンドされます。



茶市場で仕入れた荒茶は、仕上げればそれがそのまま商品になるというわけではなく、
例えば、白形傳四郎商店さんの『千寿』(せんじゅ)という商品には、15種類のお茶が入っています。

香り、味、形、水色、それぞれのいい特徴を合わせることで、バランスのとれたおいしいお茶ができます。
どれだけいいバランスで黄金比ができるか。

配合し、いろんなパターンを作り出し、そのブレンド比を考える、それがブレンド技術。
火の入れ具合も重要で、火入れの担当者に注文をし、作られた何種類かを合わせ一つのお茶ができあがります。



「一種類ではできないの」という後藤さんの疑問。梅ヶ島のお茶のように、よほどいい特徴を持っていれば別だが、なかなか一種類だけで完璧なものは無い。まるで野球チームのような、それぞれのお茶の特徴を活かした仕上げ作業の流れ。ブレンドはとても難しい技術



茶商の技術を目の当たりにした後藤さん。「良くないお茶を仕上げでカバーすることはできないの」という質問には、それらは火を強く入れ、ほうじ茶の原料にしたり、ティーバッグの一部にしたりする。かなり鼻が利く人でも、5%以下不適切なものが混合していたとしてもわからない。不良な茶葉が混ざってしまえば、1tすべてがダメになる可能性も。傷んだものは絶対に買わないようにすることが仕入れの最低条件だそう

 

新茶と熟成茶

できあがったお茶は、真空機で酸素を抜き、窒素を入れ、25kg詰めにして、冷蔵庫で保管します。
湿度、温度、紫外線がお茶に影響を与えるため、これらから守る状態に。



完全に傷むのを止めたければマイナス20度の中に入れてしまえばよいですが、それでは熟成が進まないので、3度くらいの場所に置いておくのがちょうど良いそうです。



「蔵出しのお茶」という白形傳四郎商店さんの商品があります。
かつて、徳川家康公に献上していた頃に使用していた井川のお茶蔵。

年間を通して24度くらいに維持されています。

昔は冷蔵庫など無いため、保管方法に工夫がなされていました。

献上したいお茶に和紙を巻き、さらにその周りにもう一列お茶を巻くなど。
そのお茶は献上するお茶をガードするための捨て茶。そしてさらにその周りを和紙で巻いて壺に入れ、それを井川のお茶蔵に新茶時期に納めると、秋頃には熟成していたといいます。




春のお茶、秋のお茶。熟成のお話を聞いた後藤さん。「季節とお茶の関係は?秋に飲んだら新茶じゃない?」

6月中旬くらいまでは「新茶」と打ち出します。
採れたばかりは「新茶」、秋になると「熟成茶」。

新茶には火はゆるく入れますが、夏は少し強めに。
秋はもっと強めに。

ブレンドの比率も変わってきて、季節ごとに味を変えていくのです。
もっとうまくするにはどうしたら良いか、茶商たちは常に考えており、とても神経を使う作業です。

仕入れから仕上げまでの流れ。
お茶の香りに包まれながら、茶商の想いと技を堪能しました。
その世界に魅せられた、茶市場と仕上茶工場の見学。







さて後編は、
荒茶の流通を肌で感じた後は、名人と呼ばれる生産者さんに会いに行きます。
後藤さん、いよいよ茶畑に足を踏み入れます。お楽しみに。

撮影/岡本修治


旅した人
後藤清也 goto seiya
静岡県伊豆河津町出身。幼少期より自然や花に触れ、植物の魅力に惹かれていく。東京・恵比寿のウェディング会社にてパーティ装飾や空間装飾を行う。退社後は芸能活動などを経て2012年にSEIYA Designを設立。国内外にて活動中。


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この記事のライター

植物生活編集部
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