江澤 佑己子 江澤 佑己子 37ヶ月前

”失くならないもの”

花束を組んでいると、お店にやって来るお客様から、”私もそんな花束贈ってもらいたいな”という声を耳にすることが意外と多くある。
芸能人や政治家や教育者といった、特別花をもらう機会が多い人でない限り、人生で花をもらう機会はそんなに多くないのかもしれない。
入学、卒業、誕生日や送別といった人生の節目の花と時々さりげなくやってくる花の贈り物。
コラムの執筆にあたり、これまでの人生で贈ってもらった花を思い返してみると、
想像以上に花の記憶が鮮明なことに気付かされる。
花の種類までは覚えていないものの、色、形、その時のシチュエーションまではっきりと記憶している。
何故だろう。
人の好みや価値観はそれぞれだから、一概には言えないけれど、
それは、花の力とそれに込められた人の想いに心を動かされるからではないだろうか。
花が持つ生命力と存在感。
そして、そこに込められる人の想い。
その両方を感じた時に人は心動かされ、
その感動は深く記憶に刻まれるのではないだろうか。

昨年末、祖父母の家が取り壊された。
姉からのメールでそのことを知った。
メールには、すっかり空き地になってしまった祖父母の家の跡地があった。
ずっとあると思っていたものが、一瞬で失くなってしまった。
それでも、失くならずにずっと残って行くものがある。
玄関を入った時の匂い、
仕事場から響くトンカチの音、
私たちを迎える祖父母の笑顔、
私たちのために箱買いされた食べ放題のみかん、
帰り際のアツイ抱擁...
私たち家族全員の五感に深く染み込んだ、あたたかな記憶は祖父母も、ふたりの家も失くなってしまった今も、これから先も、ずっと変わらずに残って行くものなのだと思う。
形あるものはいずれ失くなる。
花屋だから、花を特筆するけれど、
花に限ったことではない。
どんなものでも、そのものが持つ力(魅力)がある。そこに人の想いが重なって、心が動かされたとき、本当の価値が生まれ、人の記憶に深く刻まれるのだと思う。
物に溢れる時代、
パソコンを開けば欲しいものがすぐに手に入る時代。
そういう時代だからこそ、
人の想いを大事にしたい。
失くならないものを残して行きたい。
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この記事のライター

江澤 佑己子
江澤 佑己子

ハンドバックのメーカーを営んでいた祖父母の影響で、幼い頃よりものづくりに関心があり、医療事務の道に進んだ後にフローリストへ転職。都内花店で勤務後、ホテルでのブライダルの仕事に携わり、その後海外カナダの生花店にて店頭販売やウエディングを経験。2014年東京都・大田区山王にNIKO FLOWERS+(ニコ・フラワーズ)を立ち上げ独立した。リラックス方法は、音楽を聴きながらあてもなくドライブすること、料理。

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