ウチダ トモコ ウチダ トモコ 37ヶ月前

香りのシクラメン[1]

春まっ盛り。
みなさん、お花屋さんに行ってますか?

もう店頭は、春から初夏へ向けた装いです。母の日に向けたアジサイの鉢花もお目見えしていて、ついこの間まで華やかさを添えていたシクラメンの鉢花の姿は、もうそこにはありません。季節がめぐるのは、なんて早いことでしょうか。

お花屋さんの店先に並んでいたあのシクラメンは、以前、コラムに書いたとおり、シクラメン・ペルシカムからつくられた園芸品種群です。

そのペルシカムの原種はというと、じつは、ちょうどソメイヨシノが咲くころから、5月の大型連休ぐらいまでが開花期に当たります。原種と園芸種では、開花期が違うのは面白いですね。

さらに、原種は初夏から初秋にタネをまくのに対し、園芸種のタネまき時期は初秋から年内中が中心。園芸種が開花して出荷する時期は、タネまき時期でもあるのです。つまり早春の今、シクラメン園芸種の苗は全国各地の圃場ですくすくと育っていることでしょう。


△ 栽培圃場の様子。 写真提供/インプランタイノベーションズ


また、そのほかリバノチカム、レバンダム など、ちょっとマニアックなシクラメンの原種たちが、これから開花期を迎えます。展示会や植物園などで見かける機会があるかもしれません。


さてと、ここで話を戻して。
昨年末に出会ったたくさんのシクラメン園芸品種のうち、「目に見えないもの」が印象に残った4つの品種がありました。
「目に見えないもの」? そう、それは芳香。香りです。

かつて「シクラメンのかほり」という歌謡曲がヒット(1975年)したことをきっかけに一大ブームを起こしたこともあるシクラメンですが、当時の園芸品種には、ほぼ芳香はありませんでした。原種ペルシカムは微香を持っていますが、育種が進むにつれ、失われてしまったのです。

それから約40年を経て、今シクラメン界では少しずつ、芳香をもつシクラメンが出回り始めています。花色、花形、株姿に加えて、芳香も価値観のひとつとして、改めて注目されるようになったのです。

そして、この冬出会った香りのシクラメンがこの4品種。

 

■ おなじみ、ペルシカムの園芸品種

アロマティーナ ワインレッド


△ ダークで落ち着いた紅色。艶やかさも特徴的。写真提供/インプランタイノベーションズ
 


アロマティーナ ロイヤルパープル


△ 上品で落ち着いた大人パープル。万人に好まれそう。写真提供/インプランタイノベーションズ


これらは一般的なペルシカムから生まれた園芸品種のなかから、芳香のよいものを選抜したものです。それら芳香のよい株をさらに選抜を重ねたり、またよい芳香の株同士を交配したりしたのちに、株姿や花色などの要素も加え、さらに選抜。こうして選ばれたのがこの「アロマティーナ ワインレッド」「アロマティーナ ロイヤルパープル」の2品種です。
 
 

■ 他種シクラメンとの交配種

はる香(はるか)


△ ピンクの濃淡が華やかで、花弁の縁にフリンジが入るビクトリア咲き。東京都農林総合研究センター育成育種。 写真提供/インプランタイノベーションズ
 

おだや香(おだやか)


△ 赤みの強いパープル系。芳香に関しては4品種中、一番人気を誇る。東京都農林総合研究センター育成育種。 写真提供/インプランタイノベーションズ


前出の一般的なペルシカムの園芸品種とは違い、こちらの2品種は、ペルシカムの園芸品種と、芳香がよいことで知られる原種プルプラセンスを交配して生まれた品種です。

ところがシクラメンは、種類が違うもの同士を交配させても、うまくタネができません。このペルシカムの園芸品種とプルプラセンスとの組み合わせも同様で、この特徴がシクラメンの育種を、長らく幅の狭いものにしてきていました。

タネができないものから、果たして新しい個体をつくりだすことはできるのでしょうか。そこで *バイオテクノロジーの出番となったのです。

* バイオテクノロジー … 生物の細胞培養、および遺伝子操作などの方法を用い、生命や生体を工学的に取り扱う学問の総称。


このシクラメンを育種したのは、培養を得意とするバイオテクノロジー企業。一体どうやって、芳香シクラメンができたの? その仕組みを知りたくて、取材をしてきました。
ちょっと難しい話になりますが、[2]で紹介しようと思います。


text ウチダトモコ  photo&取材協力 インプランタイノベーションズ




 
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この記事のライター

ウチダ トモコ
ウチダ トモコ

園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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