ウチダ トモコ ウチダ トモコ 37ヶ月前

香りのシクラメン[2]

というわけで、香りのシクラメン[1]で紹介した、4つの芳香シクラメン。
こちらを育種生産販売しているバイオテクノロジー企業、インプランタイノベーションズさんにお邪魔してきました。
 

こんにちは!



△ 事業開発部 種苗生産グループリーダーの高野成央さん(右)と同じく主任の馬場雄大さん(左)。
最先端育種に取り組む若き研究者たちですが、その心は、身近な植物男子そのものです。
 ※各者の肩書きは、2018年4/20 現在のものです。


ーーーーー さっそくですが、[1] で取りあげた4つの芳香シクラメンの、生い立ちの違いについて教えてください。

高野 はい。まずペルシカムの園芸品種から説明しますね。



アロマティーナ ワインレッド

△ ダークで落ち着いた紅色。艶やかさも特徴的。写真提供/インプランタイノベーションズ
 


アロマティーナ ロイヤルパープル


△ 上品で落ち着いた大人パープル。万人に好まれそう。写真提供/インプランタイノベーションズ

 
育種のプロセス

1. 香りがよい株を選抜する


△ ペルシカムの園芸品種のなかから、芳香の面で優れた株を選び出します。これが交配の親になります。
 



2. 交配する 


△ 選抜した株を * 交配します。その子どもの株のなかから、さらに目的にあった芳香の株を絞って選びます。

* 交配… 植物では、ある個体の雌しべに、別の個体から採取した花粉をつけて人為的に受精させること。交雑。



ーーーーー ここまでだと、一般的な育種と同じですね。

高野 そうです。最終的に選んだ株が、この「ワインレッド」と「ロイヤルパープル」の元の株になります。そして普通はその親株からタネを取って新しい株をふやし市販への流れになるのですが、ここでバイオテクノロジーが出番となるんです。


 

3. 組織培養でふやす

高野 みなさんはさし木で株をふやしたことがありますか? 1本の枝や茎から根が生えて、新芽が出て、やがて完全な1株になります。同じように葉をさすと、葉だったところから根が出て茎がのび、1株になるものもあります。

このように植物のすごいところのひとつに、別の役割だった細胞が、用途に応じて変化できるというものがあります。

組織培養もその応用で、植物体から切り取った小さな片鱗から、同じ株をつくることができます。
「タネをとってふやしても同じでしょ?」という声もあるでしょう。でも前出のようにタネは雌しべに花粉をつけて受精させてできるので、それぞれの親株とは遺伝子が変わってしまっています。これを「* 有性生殖」といいます。

親株と同一の遺伝子を持った株をふやすには、親株の一部を切り取り、そこから新たな株にする「無性生殖」の方法をとるしかありません。

先に、さし木や葉ざしで株をふやすといいましたが、これも「無性生殖」です。そして「無性生殖」のうち、さし木や葉ざしよりも小さな植物体を用いることで効率よく株をふやす方法が、組織培養になります。なお、

* 有性生殖… 種子繁殖ともいう。
* 無性生殖… 栄養繁殖、クローン繁殖ともいう。

 


組織培養の仕組みを見てみよう


1. 植物体から切り取った小さな片鱗に 薬品処理を施し、*カルスを発生させます。

* カルス… この先、まだ何にかるか決まっていない状態の植物細胞の塊で、薬品処理によって安定的につくられる。また、その後どんな役割をもつ細胞になるか決めるためには、植物ホルモンが関連し、その濃度によって何の細胞になるかを人為的に操作することができる。



2. 植物ホルモン処理をして胚(左)や芽(右)の元をつくり、それぞれ発芽、もしくは発根させて小さな株にする。



3. 無菌状態のケースの中で育つ幼苗。この時点では細菌類に弱いため、こうした環境下で育苗します。




4. 一般的な栽培場に出して育苗し、環境に慣らしているようす。


以上、写真提供/インプランタイノベーションズ



ーーーーー なるほど、元の植物体が細胞ほど小さいと初期段階では場所をとらないし、遺伝的に同じものを大量にふやすには恰好の方法なんですね。

高野 そうなんです。そしてタネ、つまり開花期に頼らないことから、苗をつくる時期の制限が格段に減り、時間のロスやコスト削減ができるというメリットがあります。



ーーーーー では次に、別の種類のシクラメンと交配させた芳香シクラメンについて教えてください。

馬場 はい。別の種類のシクラメンとの交配種がこちらになります。


はる香(はるか)


△ ピンクの濃淡が華やかで、花弁の縁にフリンジが入るビクトリア咲き。東京都農林総合研究センター育成育種。 写真提供/インプランタイノベーションズ
 

おだや香(おだやか)


△ 赤みの強いパープル系。芳香に関しては4品種中、一番人気を誇る。東京都農林総合研究センター育成育種。 写真提供/インプランタイノベーションズ


ーーーーー [1] によると、シクラメンの原種のうち、芳香がよいプルプラセンスを選んで交配したとのことでした。また、シクラメンは、別の種類と交配してもタネができないとおっしゃっていましたね。

馬場 はい。園芸種のシクラメンでも花がら摘みを怠ると、丸い玉状の果実ができるのと見たことがある方も少なくないでしょう。しかし、シクラメンは、シクラメンどうしても種類が違うとタネができにくい性質があります。特に夏咲きのプルプラセンスは、春咲きのペルシカムと開花時期が違うため、栽培環境下でも交雑することは皆無といってもよいでしょう。さらに、両者は同じシクラメンの仲間でありながら種類としては関係性が遠く、これもタネができにくい理由とされています。


ーーーーー その不可能を可能にしたのが、やはりバイオテクノロジーということでしょうか?

馬場 そんなところです。まず、繰り返しになりますが、タネはできません。しかし、「タネの前段階のタネはできる」のです。先に「3.組織培養でふやす」を解説しましたが、この組織培養のメソッドは「タネの前段階のタネ」にも利用でき、「タネの前段階のタネ」から植物体をつくりだすことができるのです。


ーーーーー なるほど!「小さな細胞」とは、茎や葉、芽などの片鱗だけではなく、タネになる前段階のタネをも含むのですね。なんだか魔法のようですが、植物って不思議ですね。それからこの2品種の育成者が研究センターということは、研究センターによるバイオテクノロジーの力がなければ生まれてこなかったからということですね。

馬場 はい。そういうわけです。


ーーーーー ところで、このように別の種類のシクラメンと交配することは、今、世間で耳にする「遺伝子組換え」と呼ばれる技術なのでしょうか?

馬場 いいえ、違います。ペルシカムとプルプラセンスは自然界では交わることがなく、またタネは前段階のものまでしかできませんが、いずれにしても組み合わされるのは、シクラメンという種間だけのことです。
 組織培養というバイオテクノロジー技術が使われてはいますが、シクラメン同士の交配によって作られたこれらの品種は遺伝子組換えとは異なります。


ーーーーー そうだったのですね。ニュースにもなった青いバラはパンジーの遺伝子、カーネーションはペチュニアやビオラの遺伝子を組み込んだと聞いています。

馬場 そうです。いずれも別種の植物の遺伝子を介入させて作られていますよね。これを「遺伝子組換え」といい、同じシクラメンならシクラメン、ジニアならジニアという種間や属間で交配する従来のバイオテクノロジーの方法とは別物になります。



ーーーーー ありがとうございました。理解が深まりました。さて、最後にお尋ねさせてください。今後、この芳香シクラメンのシリーズに、新品種が登場する可能性はありますか?

高野 もちろんです! すでに販売の準備が進められている品種を含めて、近いうちに白花や八重咲きなどをご紹介できると思います。


ーーーーー それは楽しみです! 今秋には現物に出会えると良いのですか。まだまだシクラメンからは目が離せませんね。今日はおつきあいをありがとうございました。

高野・馬場 楽しみにしていてくださいね。今秋、園芸店でお会いしましょう。


*****

いかがだったでしょうか。
最先端技術のもとで生まれ花の新品種のようすを、ほんの少しですが、垣間見ることができたでしょうか。
今、店頭に並んでいる花のなかにも、こんな風な由来で誕生した品種があるかもしれません。そう思うとお花屋さんの店先を眺めるのも、一層楽しく、興味深くなると思いませんか?



text & photo ウチダトモコ  photo&取材協力 インプランタイノベーションズ








 
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この記事のライター

ウチダ トモコ
ウチダ トモコ

園芸ライター、グリーンアドバイザー、江戸東京野菜コンシェルジュ。
園芸雑誌、ライフスタイル誌などの編集、ライターを経て、現在は主にウェブで提案および取材執筆活動中。

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