ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン06 フロリストとして捉える 植物の主張
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第6回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
自然構造から植物の主張について考える
植物が持つ主張という考え方は、植物の造形理論を理解する上で、頭に入れておくべきものです。
主張は植物の個性であり、外見だけでなく生物としての植物の本質を捉えることにつながります。
個々の植物がどのような勢力を持っているのか考えてみましょう。
誰よりも目立ち他を圧倒しているもの、中くらいの位置にいて他に合わせようとするもの、独自の世界を持ち自由な位置を保つもの、目立たない場所で同種と仲良く平和に過ごすもの、小さくても群れずにひっそりと存在するものなど、その個性はさまざまです。
あらゆる造形の見本となる基本的な自然の構造をイラストにしたものです。
一番上には大きな木々がそびえ、その下には中くらいの木、さらに下には小木、背の高い草花、背の低い草花、足元には地面にごく近い位置に生息する草花が存在します。
自立はできないけれども、高い木々に絡んで高く蔓を伸ばす植物や、足元には苔や石、落ち葉、人間が置き去った錆びた空き缶などもあるかもしれません。
このように自然は大、中、小の主張を持つ植物で構成されています。
3つに分類する
大きく強い主張を持つ植物は単独性があり、少ない量でも絶大な表現力を持っています。ユリやランなどがその例です。
中くらいの植物は、表現に合わせて量を多くしても少なくしても使うことができ、他の植物とコンビネーションもしやすい便利な材料です。
チューリップやキクなどに代表されます。主張が小さい、弱い植物は、群生として量を使うことでその魅力を発揮します。小花や草花がそれにあたります。逆に少量を使うことで、繊細で弱い表現もできます。
花店の品揃えを考えると、主張の大きいものをアクセントとして少し扱い、主張が中くらいのものを多く仕入れてあらゆる注文に対応できるようにし、主張の弱いものもそこそこに入れて、全体の調和をはかる手段として用いるのが一般的です。
各店の商品の個性によって、その割合は変わってくるでしょう。
作例1
中くらいの主張の花を主役に1 カンパニュラを魅せる柔らかい、ナチュラル、ざらついた質感など、素朴なキャラクターを持つカンパニュラを、繊細で上品、透明感といった側面を見せる主役の花として扱ったアレンジ。フレキシグラスとバイカウツギで作った流れの中で、茎全体を見せるように動きを出して配置。花だけでなく植物としての姿をクローズアップすることで主張を強めている。
{ Flower&Green }
カンパニュラ、バイカウツギ、フレキシグラス
制作のポイント
フレキシグラスを花留めにしてバイカウツギで輪郭をとり、その流れの中でカンパニュラを引き立たせる。ガラス器で軽やかさと透明感を演出。
作例2
中くらいの主張の花を主役に2 スカビオサを魅せる繊細でか弱い、自由などのキャラクターを持ち、中くらいから小さい主張のスカビオサを、量を使うことで主役格に。強く濃い華やかな色のものを選び、幅広で特徴のある季節の葉物、ジャーマンアイリスの葉と組み合わせてシンメトリーにアレンジ。装飾的に仕上げてインパクトを強めている。器も華やかな印象のものを選び、テーマに合わせた。
{ Flower&Green }
スカビオサ、ジャーマンアイリス(葉)
制作のポイント
ジャーマンアイリスの葉の間にスカビオサを配置。高低差をつけ、葉の間から茎ものぞくように構成する。丸い花だけを見せると単調になるため。茎の動きも装飾の一部。
今回のまとめ
植物の主張とは?・外見や生物としての本質から捉えられる植物の個性。
・他を圧倒する存在感があり目立つもの、中間の位置で全体の調和をとるもの、小さくひっそりと存在するものと、大、中、小の3つの主張に分類される。
・主張の大きさの設定には、植物の大きさと形、色、動き、表面構造、生息環境などが影響する。
・作品や商品作りではメインの材料の主張を考え、その強さの度合いによって合わせる材料の主張を考える。使用材料の主張の強弱により、テーマ性は変化する。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。