ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 07 植物の表面構造
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第7回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
植物は花、茎、葉、幹や実、根などの部分から構成されています。
これらを近くで観察してみましょう。
花弁や葉の表面、触ったときの感触、つるつる、ざらざら、刺々しいものもあるでしょう。
視覚的な印象も含めたこのような植物の質感・テクスチャーを、表面構造といいます。
表面の構造は、次の3つに大別することができます。
1. 艶のあるもの(アンスリウム、モンステラの葉、ツバキの葉など)
2. 半艶ぐらいで滑らかな印象のもの(カラー、ユリ、ラン類、バラ、多くの植物の花弁や葉、茎)
3. 表面のバラけた、ガサガサしているもの(アザミ、ヒマワリ、ジニアなど)
表面構造には特有のイメージがあります。
例えば艶のある表面構造は硬い、冷たい、都会的などのイメージを持ち、絹のような滑らかなものはしなやか、上品、柔らかい、軽いなどの印象を与えます。
粗くバラけた表面構造は、粗野な、自然のままの、温かみのある、重いなどの印象があります。
植物のさまざまな表面構造を観察してみましょう。
特別な質感を持つ葉や花弁を見つけたら、手で触れて感触を確かめましょう。
近づいて写真に収めたり、スケッチをしたり、その葉を一枚一枚並べ、美しさがどこからくるものなのかを考えたり、異なった質感の葉を並べて違いを記憶するのも良いでしょう。
皮のようなスイレンの葉、綿のようなラムズイヤーの葉、絹のようなコスモスの花弁など、形容しながら観察するのも効果的です。
作品の中で優位に扱われる表面構造は、作品全体の印象を左右します。
また表面構造が持つ印象は、花や植物の色によるキャラクターづけにも影響します。
例えば、ビロードのような質感を持つ赤いアマリリスは、同じ赤でも艶があり冷たい印象のアンスリウムに比べると、赤い色をより温かく感じさせてくれます。
表面構造の性質は、花や植物の視覚的な重さにも影響します。
ツバキの葉、ストレリチアの葉などは硬く重いイメージを持ち、リナリア、コスモスなどは繊細で、軽い印象の表面構造を持っています。
また使用する植物と器との調和も必要です。器が持つ材質感やキャラクターも、作品のテーマと関連づけなければなりません。

ニッキの枝やバンダなど滑らかな質感を持つ材料に、バンクシアやダイオウマツなど粗くガサガサした印象のものを合わせたアレンジメント。同じ質感でも硬さや色によって異なる個性を効果的に見せるため、コンパクトにまとめた。バンダの紫につなげて青みがかった色みの材料を集め、夏を意識した。
{ Flower&Green }
ニッキ(枝)、バンクシア、ユーカリ・テトラゴナ、オリーブ、ユーカリ、バンダ、ダイオウショウのマツカサ
制作のポイント

ドライになる材料を皿の輪郭から出ないように重ね、バンダはピックで保水。花を替えれば長く楽しめる趣向。

布のような温かみと優しい印象の質感を持つフランネルフラワー。思わず触れてみたくなるような親近感を持つこの花に、刺々しいイメージのアザミを合わせた。コントラストの妙によって個性的な花束に仕上げている。アザミは7月のニュアンスを持つことから選択。硬く滑らかな質感を持つオリーブは、色合わせのために加えている。
{ Flower&Green }
フランネルフラワー、アザミ、オリーブ
制作のポイント
フランネルフラワーの特徴ある質感を強調するため、コンパクトに束ねる。アザミは低い位置に配置することで奥行きを出す。茎と葉の硬いオリーブは、花の保護のために足元にも入れる。
・視覚的なイメージを含めた植物の質感・テクスチャー。
・表面の構造は「艶のあるもの」「半艶ぐらいで滑らかなもの」「表面がバラけてガサガサしているもの」の3つに大別される。
・艶のある表面構造は冷たい印象、滑らかなものは上品、バラけたものなら温かみがあるなど、構造によって特有のイメージを持つ。
・表面構造が持つ印象は、植物や花の色によるキャラクターづけにも影響する。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
レッスン 07
植物の表面構造
植物は花、茎、葉、幹や実、根などの部分から構成されています。
これらを近くで観察してみましょう。
花弁や葉の表面、触ったときの感触、つるつる、ざらざら、刺々しいものもあるでしょう。
視覚的な印象も含めたこのような植物の質感・テクスチャーを、表面構造といいます。
表面の構造は、次の3つに大別することができます。
1. 艶のあるもの(アンスリウム、モンステラの葉、ツバキの葉など)
2. 半艶ぐらいで滑らかな印象のもの(カラー、ユリ、ラン類、バラ、多くの植物の花弁や葉、茎)
3. 表面のバラけた、ガサガサしているもの(アザミ、ヒマワリ、ジニアなど)
表面構造には特有のイメージがあります。
例えば艶のある表面構造は硬い、冷たい、都会的などのイメージを持ち、絹のような滑らかなものはしなやか、上品、柔らかい、軽いなどの印象を与えます。
粗くバラけた表面構造は、粗野な、自然のままの、温かみのある、重いなどの印象があります。
植物のさまざまな表面構造を観察してみましょう。
特別な質感を持つ葉や花弁を見つけたら、手で触れて感触を確かめましょう。
近づいて写真に収めたり、スケッチをしたり、その葉を一枚一枚並べ、美しさがどこからくるものなのかを考えたり、異なった質感の葉を並べて違いを記憶するのも良いでしょう。
皮のようなスイレンの葉、綿のようなラムズイヤーの葉、絹のようなコスモスの花弁など、形容しながら観察するのも効果的です。
表面構造の特徴を作品作りに生かす
表面構造から受ける印象は、見る側の感覚や感情を呼び起こします。作品の中で優位に扱われる表面構造は、作品全体の印象を左右します。
また表面構造が持つ印象は、花や植物の色によるキャラクターづけにも影響します。
例えば、ビロードのような質感を持つ赤いアマリリスは、同じ赤でも艶があり冷たい印象のアンスリウムに比べると、赤い色をより温かく感じさせてくれます。
表面構造の性質は、花や植物の視覚的な重さにも影響します。
ツバキの葉、ストレリチアの葉などは硬く重いイメージを持ち、リナリア、コスモスなどは繊細で、軽い印象の表面構造を持っています。
また使用する植物と器との調和も必要です。器が持つ材質感やキャラクターも、作品のテーマと関連づけなければなりません。
作例1
表面構造の特徴を作品に生かす1 デコレーションシャーレニッキの枝やバンダなど滑らかな質感を持つ材料に、バンクシアやダイオウマツなど粗くガサガサした印象のものを合わせたアレンジメント。同じ質感でも硬さや色によって異なる個性を効果的に見せるため、コンパクトにまとめた。バンダの紫につなげて青みがかった色みの材料を集め、夏を意識した。
{ Flower&Green }
ニッキ(枝)、バンクシア、ユーカリ・テトラゴナ、オリーブ、ユーカリ、バンダ、ダイオウショウのマツカサ
制作のポイント
ドライになる材料を皿の輪郭から出ないように重ね、バンダはピックで保水。花を替えれば長く楽しめる趣向。
作例2
表面構造の特徴を作品に生かす2 フランネルフラワーの花束布のような温かみと優しい印象の質感を持つフランネルフラワー。思わず触れてみたくなるような親近感を持つこの花に、刺々しいイメージのアザミを合わせた。コントラストの妙によって個性的な花束に仕上げている。アザミは7月のニュアンスを持つことから選択。硬く滑らかな質感を持つオリーブは、色合わせのために加えている。
{ Flower&Green }
フランネルフラワー、アザミ、オリーブ
制作のポイント
フランネルフラワーの特徴ある質感を強調するため、コンパクトに束ねる。アザミは低い位置に配置することで奥行きを出す。茎と葉の硬いオリーブは、花の保護のために足元にも入れる。
今回のまとめ
植物の表面構造とは?・視覚的なイメージを含めた植物の質感・テクスチャー。
・表面の構造は「艶のあるもの」「半艶ぐらいで滑らかなもの」「表面がバラけてガサガサしているもの」の3つに大別される。
・艶のある表面構造は冷たい印象、滑らかなものは上品、バラけたものなら温かみがあるなど、構造によって特有のイメージを持つ。
・表面構造が持つ印象は、植物や花の色によるキャラクターづけにも影響する。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。