ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 09 植物の色
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第9回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
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レッスン 09 植物の色
黄みを帯びた色と青みを帯びた色
今回は、植物材料の使用する部分・見せたい部分の色が黄みを帯びた色なのか、青みを帯びた色なのかについて考えます。
赤・青・黄・紫・オレンジ・緑などの色には、それぞれに黄みを帯びたものと、青みを帯びたものがあります。
黄みを帯びた色は、一般的に暖かい、柔らかい、優しいなどのイメージを持ちます。
一方、青みを帯びた色は、冷たい(クール)、都会的、爽やかなどの印象があります。
黄みを帯びた色は暖色、青みを帯びた色は寒色と考えると、暖色は赤・黄・オレンジなどの色という認識だけではなく、寒色と呼ぶことのできる青みを帯びた赤・黄・オレンジも存在することになります。
もちろん、その反対もあります。
扱いたい植物の色がどちらの分類に入るのか、どのように組み合わせて使うかを考えることは重要です。
それぞれの植物が持つ色の特徴を使って表現をすることで、花の作品はより魅力的な表情を見せてくれるでしょう。
黄みを帯びた色、青みを帯びた色の分類を使って、個人に似合う色合いを決めるパーソナルカラー診断というものがあります。
自分の肌や髪、目の色の色みを判断し、黄みを帯びた色の服が似合うか、青みを帯びた色の服が合うのかを診断するものです。
フロリストが色に対する感覚を向上させるのに役に立つでしょう。
黄みを帯びた色を持つ植物とそのイメージ
[ ダリア ]優しい
[ ヒペリカム ]暖かみのある
[ イタヤカエデ ]親近感のある
[ ガイラルディア ]明るい
[ エキナセア ]暖かみのある
[ アルストロメリア ]親近感のある
[ ペチュニア ]ほのかに明るい
[ カレックス ]落ち着いた
青みを帯びた色を持つ植物とそのイメージ
[ ダリア ]女性的
[ ユーカリ ]上品な
[ アジサイ ]爽やかな
[ トウヒ ]冷たい
作品のテーマに合わせて色を選択する
黄みを帯びた色と、青みを帯びた色の基本的な組み合わせは、次の通りです。
・黄みを帯びた色のみ
・青みを帯びた色のみ
・黄みを帯びた色(多く) + 青みを帯びた色(少なく)
・青みを帯びた色(多く) + 黄みを帯びた色(少なく)
しかし、植物の色みの特定は簡単ではない場合もあります。
青みを帯びた色の花弁に黄みを帯びた色のガクや葉を持っていたり、暖かみを感じるざらついた質感を持つ植物が青みを帯びた色をしていたり。
また成長の過程や光の当たり方でも変化します。
植物のどの部分のどのような特徴を生かして作品に取り入れるのか、表現したいイメージやメッセージを明確にし、材料を選びましょう。
作例1
色みの違いによるイメージの変化 1― 黄みを帯びた材料で ―
夏の終わりから秋のはじまりを意識した色にこだわりながら、一つのリースの右半分と左半分で配置する材料の色みの変え、印象の違いを見せる。こちらは、黄みがかったバラ‘オリキュリ’ の持つ可愛らしく暖かみのあるイメージに合わせ、同じく黄みを含んだ色の材料で構成。質感はざらついたもので揃え、優しさと豊かさを表現している。
{ Flower&Green }
バラ‘オリキュリ’、クルメケイトウ、チョコレートコスモス、エノコログサ、ヒペリカム、ヒマワリ‘東北八重’、シソ、ヨウシュヤマゴボウ、アジサイ、アルケミラ・モリス
制作のポイント
材料は自然なグルーピングで配置。リースなので流れを意識することが重要。材料が持つ色みをよく観察し、適したものを合わせる。
作例2
色みの違いによるイメージの変化 2― 青みを帯びた材料で ―
左側は、青みがかったバラ‘ソルファ’の上品で女性的なイメージに合わせた材料で制作。質感も色と同じくクールな印象の半ツヤからツヤにあるものを集め、優雅さと高級感を表現した。
{ Flower&Green }
バラ‘ソルファ’、ケイトウ‘ボンベイ’、ユーカリ・テトラゴナナッツ、セントランサス、グミ、シマススキ、黒ホオズキ、ユーカリ、アジサイ、オレガノ、黒米
制作のポイント
流れを作るグリーンも、反対側はざらついて暖かみのある質感を持つエノコログサを使用しているのに対し、こちらは半ツヤのシマススキでエレガントに。
今回のまとめ
・植物の重要な特性の一つ。一つの植物の中でも花、茎、葉、根や種子に至るまで色はさまざま。・赤・青・黄・紫・オレンジ・緑などの色は、それぞれ黄みを帯びたものと、青みを帯びたものに分けられる。
・黄みを帯びた色は、暖かい、柔らかい、優しいなどのイメージ。青みを帯びた色は、冷たい(クール)、都会的、爽やかなどの印象を持つ。
・扱いたい植物の色がどちらの分類に入るのかを考える。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。