植物生活編集部 植物生活編集部 2019/08/20

ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 10 プロポーション


フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第10回

花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。

造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。

毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。

フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。

まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。


これまでの連載はこちらから



フロリストマイスターが教える 花の造形理論 
第10回 心に残る作品作りのためのプロポーション


植物を使った作品や商品作りの際には、美しいプロポーションを目指すことが基本となります。
そのためには高さ、幅、奥行、材料やフォーカルポイントの位置、器の大きさとの関係、植物の形、色、主張、キャラクター、動きなどのさまざまな要素を考慮しなければなりません。

フラワーデザインにはいつも基本となる割合があります。
アレンジメントでは、配置した植物と器の高さ、花束では、結束部分を起点として上の部分と水に浸かる茎の部分の割合、リースでは、リングの太さと中の空洞部分の直径の割合、などです。

現在では、多くは1:1.618(約3:5または5:8)を基点とした黄金比率をもとに、美しいプロポーションが示されています。
フロリストが制作したものが置かれる場所や、生ける花瓶の形がわからない注文に応えるには、誰が見ても一定の満足感が得られる正しいプロポーションで制作する必要があります。
太古の昔から、さまざまな芸術家や研究者が発見と発展を繰り返し、構築された黄金比率は、自由で個性的な造形のスタート地点といえるでしょう。

正確で規則正しく構成された作品は、安定感、安心感があり、静か、人工的、というようなイメージを持ちます。
それゆえに既定のプロポーションに沿ったものばかり作っていると、やや退屈で飽きやすく、量産的な印象を持たれる可能性もあります。
実際の作品作りでは、作品がテーマに合った表現となっているか、他にはない自分だけの作品としての満足度を持っているかを考えることが重要でしょう。
そのためにはいかに既定のプロポーションからはずれて、見る人の心に留めてもらえ、目立つことができるか、作品のテーマ性を伝えることができるかに注意を図ることが大切です。
 

植物の個性を取り入れたよいプロポーションの考え方

フロリストには、お客様の注文に忠実に応じることと、オリジナリティーのある驚きをもった表現ができること、この2つが必要とされます。

プロポーションをどの程度守り、どのように変化させて見せるか、これらを工夫することが大切です。
例えば、長さの割合を既定のプロポーションからはずした作品を作ったとしましょう。
それでも、使用する植物材料の色や形、質感、主張やキャラクターなどの要素が持つ「見た目の重さ」により、一見バランスが悪く見える作品にも、少しの調和を持たせることができます。ここが、花の造形のおもしろさでもあります。

作例1

既定のプロポーションをはずして魅せる 1
― 秋の終わりを表現 ―



花の巨大なダリアの個性を強調したアレンジメント。今にも迫ってきそうな存在感を引き立てるため、器に対し、花の長さを少しオーバーに長く構成。基本のプロポーションを大きくはずすことで特徴を際立たせた。咲き終わったダリアと、彩度を落とした材料を数と種類を控えて合わせることで、冬も間近の熟しきった秋を表現。

{ Flower&Green }
ダリア、トウガラシ‘ブラックパール’、ホオヅキ、ユーカリ、サンキライ、ガンソク、ハス(実)、ナス、マツカサ

制作のポイント
冬の訪れを予感させるイメージで構成。白いダリアを引き立てるために、色みを抑えたモノトーンの材料を合わせている。高く挿したダリアと、それに対して小さい器とのバランスをとるため、足元にはナスやマツカサを置き、安定感を出した。

 

作例2

既定のプロポーションをはずして魅せる 2
― 秋の成熟した豊かさを表現 ―


秋の盛りの熟した雰囲気を魅せる花束。丸い輪郭をわざと崩して束ね、花と色が溢れ、冬に向かってばらけていく自然の様子を表現した。既定のプロポーションより小さめの器に生け、器の割合を小さくすることで、溢れる植物の様子を強調している。器は重い印象にならないよう、中央がくびれた形のものを選んだ。

{ Flower&Green }
キク、ジニア、ダリア、 コスモス、キャロットフラワー、エキナセア、ケイトウ、ノイチゴ、トキワマンサク、バラ(実)、シソ、シダレモミジ

制作のポイント
秋の豊潤さやダイナミックな色みを持つ材料を選択。中心の密度を高くし、左右の均等な長さのバランスを崩し、外側に向かって展開するようなイメージで束ねている。花の部分のボリュームに対して、茎は器に合わせてカットしている。

 

今回のまとめ

・作品や商品作りの際に、考えるべき重要な要素の一つ。アレンジメントや花束など、分野ごとに美しいプロポーションの基本がある。
・美しいプロポーションの基準は、1:1.618の黄金比率。
・黄金比率は安定感や安心感があるが、作品作りでこればかりにとらわれると、退屈で量産的な印象になることも。
・作り手の個性を表現するには、既定のプロポーションをはずしながらも、植物の取り入れ方で調和を持たせる工夫をすることが大切。

写真/中島清一 月刊フローリスト


講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。

http://www.h-arrangements.com

橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法

 
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