ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 12 アドベントの花飾り
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第12回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
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フロリストマイスターが教える 花の造形理論
第12回 クリスマスを迎えるための花飾り
今回は少し内容を変え、行事にまつわる造形についてお話します。
ドイツには、クリスマスの前にアドベント(降待節)と呼ばれる期間があります。
11月30日に最も近い日曜日を第1アドベントとし、4回の日曜日を過ごしてクリスマスを迎えるというものです。
人々は第1アドベントまでに家中をクリスマス一色に飾りつけ、クリスマスを待ちます。
ドイツのフロリストは、アドベントに入る前の週末にクリスマス展示会を店で開催します。
各店の特徴を出し、工夫を凝らしたクリスマスの花飾りを所狭しと準備して、常連客や一般客を招待し販売します。
各家庭では、庭の樹木には星のオーナメント、玄関にはドアリース、食卓やリビングにはアドベントリースやクリスマスツリー、各部屋にはポインセチアやアマリリスの鉢などが飾られます。
ドイツでは「クリスマスの花飾り」よりも、「アドベントの花飾り」と呼ばれるのが一般的です。
近年では日本でも、さまざまなクリスマス用の花飾りが作られ、飾られています。
今回は、フロリストがこれらを制作する際の参考になればと思い、使用する材料の意味などを紹介します。
ドイツでのアドベント期間のイメージは、次のようになります。
「太陽の光が少なく外気温は低く、人々は暖かさや安心感を求めて家の中で過ごす時間が多くなる。外は薄暗く冷たい空気が地上に垂れ込め、すべての植物が凍え死んでしまったかのように感じる。とても不安な気持ちを持ちながら家の中に閉じこもり、新しい光や生命の復活をじっと待っている」
極寒と呼ばれる地域が多くない日本ではイメージしづらいかもしれません。
それでもクリスマスの花飾りの楽しみ方やその制作においては、このイメージを持ってスタートするべきでしょう。
アドベントの花飾りに使用される造形要素
愛…力、生命、キリストの血
緑…希望
光…暖かさの象徴
材料
◎常緑植物
寒い冬に打ち勝つ強い生命力、自分たちの身と重ねて身近に感じる。
モミ、トウヒ、ヒバ、マツ、イチイ、ヒイラギ、アイビー、ヤドリギなど。
◎実もの
新しい生命への希望。
バラの実、マツカサ、ホオズキ、ザクロ、サンザシ、リンゴなど。
◎キャンドル
光と暖かさの象徴。
細長く一般的なテーパーキャンドル、円錐型、球型など。
◎その他
・ドライになりやすい材料
ゲッケイジュ、ローズマリー、ラベンダー、エリカ、ユーカリ、蔓性の植物、枝、コケの
ついた枝など。
・定番の切り花
クリスマスローズ、赤バラ、ポインセチア、アマリリスなど。
アドベントの代表的な花飾りの象徴性
・赤・常緑植物
・キャンドル
・クリスマスツリー…キリスト教以前の樹木信仰からの木々への敬愛。
・クリスマスリース…永遠、太陽とそれに依存する生命。
・アドベントリース… 4本のキャンドルは光と暖かさの象徴。また4つの季節とその循環を表す。1本目のキャンドルはプレゼントの贈り主への感謝、2本目は救世主への希望、3本目はキリスト教への信仰心、4本目は人間同士の愛を象徴。
象徴性を理解した上での応用
アドベントの花飾りは、それぞれに意味のある材料が使用され、人々の祈りや感情が込められたものです。前ページで挙げた象徴性や意味は一定に定められたものではなく、解釈の違いでさまざまな言葉で言い換えられたものも少なくありません。
ドイツでも同じことがいえますが、フロリストたちの創造性に溢れた新しく斬新なアドベントの花飾りは、本来の意味合いを理解した上での応用であることが望ましいとされています。
角材に長さ40㎝程度の棒を固定し(左の写真では茶色く着色したものを使用)、材料をワイヤーで留め付けながらツリーの形に整える。
上部は設置するキャンドルから自然につながって見えるように、短く切った材料を重ねて巻き付けたり、最後はパーツにして吊るすなどし、棒の周囲が太くなるようにしている。
作例1
アドベントに飾るオブジェ ― 冬の寒さをイメージして ―
冬の寒さをテーマにしたオブジェ。常緑樹のモミやコニファー、実ものなど象徴性を持つ材料を合わせ、クリスマスツリーを連想させる形に作っている。色みを抑えた材料を選びテーマを強調しているが、このままだと寒いだけの印象になるところ、キャンドルを灯すことで暖かいイメージに変わる。火を灯すことで完成するオブジェ。
{ Flower&Green }
モミ、コニファー‘ブルーアイス’、ユーカリ(ポポラス、グロボラス、テトラゴナ)、フィリカ、ウッディベアー
制作のポイント
大きく華やかな材料を多くの種類を使って束ねるので、各材料の主張に気を配り構成。
高低差をつけ、低い部分には色の強い、または丸い形の材料を入れながら、すべての植物の個性が際立つように配置する。
テーブルに飾ることを想定し、横から見ても材料の華やかさが伝わるようにしている。
作例2
アドベントに贈る花束 ― 楽しく明るい雰囲気で ―
深い赤からオレンジ、茶、黄へと色をつなげ、象徴性を持つ色を豊かに合わせた訪問用の花束。常緑樹の緑とクリスマスの定番花、赤バラが生命の喜びを、黄色のダリアが希望を表す。リンゴやバラの実などの実ものも、この時期の花飾りには欠かせない。メガルカヤやドラセナ、イチョウ、オオデマリの葉で冬の自然的な雰囲気を出している。
{ Flower&Green }
バラ‘クラタ’、ダリア、サンザシ、ドラセナ、オオデマリ、イチョウ、トキワマンサク、ヒイラギ、バラの実、サカキ、コノテヒバ、カレックス、アジサイ、リンゴ、ドイツトウヒ、メガルカヤ
制作のポイント
大きく華やかな材料を多くの種類を使って束ねるので、各材料の主張に気を配り構成。
高低差をつけ、低い部分には色の強い、または丸い形の材料を入れながら、すべての植物の個性が際立つように配置する。
テーブルに飾ることを想定し、横から見ても材料の華やかさが伝わるようにしている。
今回のまとめ
・アドベントは、クリスマスの4週間前の日曜日から始まるクリスマスの準備期間。その間に用意する装飾で、ドイツでは「クリスマスの花飾り」と同義。
・クリスマスツリーやリース、アドベントリースなどがその代表。使用される色には、象徴的な意味合いがある。
・常緑樹や実もの、キャンドルなどの材料にも、この時期の喜びや信仰のシンボルとしての意味がある。
・ドイツでも流行に合わせてさまざまな色や材料が使われるが、フロリストとして基本を知っておくことは必要。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。