ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 13 自然観察から装飾的な表現へ
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第13回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
これまでの連載はこちらから
フロリストマイスターが教える 花の造形理論
第13回 植生的な表現と装飾的な表現
これまで12回にわたり、植物を使った造形に必要な基本的な考え方をお伝えしてきました。
引き続き本連載にて、自然観察、自然研究をスタート地点としたフロリストのための造形理論を解説していきます。
私たちの身近にある自然(植物がある場所)のどこを見て、植物が持つどのような特徴を観察するべきか、また自然からのさまざまな造形要素の発見や、作品作りの際に必要な根本的な視点、考え方についてお話します。
私たちの創作、植物を使った造形は、その用途や目的によっていかようにも表現が可能です。
大まかな図式で示すならば、以下のように考えることができます。
私たちが作るすべての作品は、この範囲内にあります。自分の作る作品は右寄りなのか左寄りなのか、どの程度の自然性を伝えようとしているのか?作品の自然性の度合いを知ることは、植物の造形を考えるうえで大切なことです。
人の手によって造形するわけですから、自然そのものをコピーした作品を作ることはありえません。
植物が自然の中で持つ本来の生長の姿や主張をできるだけそのままに構成し、そこに作者が感じ取った自然や、使用する材料から得る印象を、自然を見本としながら造形する。それが植生的な表現です。
一方、植生的ではない表現は、植物が持つ生長の様子や、多種の植物が見せる自然の中での主張の順序のすべてを考慮に入れることはしません。
表したいテーマを強調するために、見せたい部分のみを選択し、クローズアップする表現です。
今回は、後者にあたる装飾的な表現について考えてみましょう。
装飾的な表現とは一般的に、華やか、にぎやか、花がいっぱい、豊か、色彩鮮やか、豪華、艶やか、宝飾品のような、などのイメージを持ちます。
フロリストの仕事の中でも、お客様の希望として最も多いテーマだと思います。植物が季節ごとに見せる装飾性を見逃さず、その美しさに共感して造形の表現に利用しましょう。
花材の中にも装飾的なイメージが強いものがあります。
バラ、ユリ、ダリア、コチョウラン、アンスリウムなどがその代表といえるでしょう。
花の大きさや優雅な咲き方、多彩な色合い、希少価値などからくるその印象は、長い間人々に愛されているものです。
装飾性の種類について考える
造形の表現としての装飾性には多くのバリエーションがあります。開店祝いに飾られるスタンド花は、遠目に見てもその華やかさがわかるようにアウトラインを明確に作ります。
一方で、一輪挿しのコチョウランや大輪のダリアでも、その装飾性を十分に表すことができます。
自然的に見える構成の中でも、大きな顔や彩度の高い色を持つ花を使えば華やかに。大人っぽい雰囲気の装飾性もあるでしょうし、かわいらく、子供っぽい装飾性もあります。
作品のテーマとして「装飾的」を選んだ場合には、用途や置き場所、お客様の希望に合わせ、「どんな装飾性を表わそうとしているのか」を明確にして制作することが大切です。
花の大きさなのか、色なのか、質感、形なのか?または、何か決まった印象やイメージなのか?さまざま方向からのアプローチが重要となります。
作例1
「大人っぽい上品さ」を表す装飾的な表現
正月らしい華やかさのあるストレリチアをメインに、枝を組んで作った見せるための花留めを使用したアレンジメント。装飾的でありながら、どこかクールで上品なイメージを持つストレリチアに合わせて副材料を選び、落ち着いた印象に仕上げた。マツカサやユズなど季節を表現する材料も取り入れて。ゴールドの皿にのせ、テーマを強調した。
Flower&Green
ストレリチア、キク‘ブロンズ’、ヘクソカズラ、ヒバ、ユーカリ、スモモ、黄金ミズキ、マツカサ、ユズ(実)、枝数種
制作のポイント
デザイン性と機能性を備えた、装飾的な花留め。枝は安定性がありながら、動きや形に特徴があるものを数種類組み合わせている。ストレリチアのキャラクターに合わせて、花留めもシックで力強さのあるものにした。
作例2
「若々しい明るさ」を表す装飾的な表現
Flower&Green
ユリ‘フェニス’、ガーベラ‘ヒマリア’、カーネーション‘ピーチマンボ’、チューリーップ‘スーパーパロット’、センリョウ、ワックスフラワー‘マイスイート’、ユーカリ、ヒペリカム、アイビー2種、ナデシコ‘テマリソウ’、シーグラス
制作のポイント
ピンク色のユリをメインの花として選び、新春のイメージで制作。ユリのかわいらしい雰囲気に合わせ、明るく、若々しい印象の材料でまとめている。流れるシーグラスでやわらかさを強調。ブロンズネットとタケヒゴの資材で作った花留めは、ユリのイメージに合わせて色や素材を選択した。
筒状にしてからリング状に整えたブロンズネットに、タケヒゴの資材を通して制作した花留め。材料が多く配置できるよう、空間を確保しながらも密に作っている。見せるための装飾的な花留めは、テーマに合わせて色や素材の質感、デザインを考えることが重要。
今回のまとめ
装飾的な表現とは?・植物が持つ生長の様子や自然の中で見せる主張などは考慮に入れず、表したいテーマを強調し、見せたい部分を強調する表現方法の一つ。植生的ではない表現。
・華やか、にぎやか、豊か、色彩鮮やかなどのイメージを持ち、お客様からの注文でもっとも多いテーマ。
・表現としての装飾性はバリエーションが豊富。スタンド花から一輪挿しまで、それぞれの形で表すことができる。
・具体的な色か形か、または印象やテーマなのか、装飾性の種類を明確にして制作することが大切。
撮影/中島清一
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。