ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 15 構成のリズム
フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第15回
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。
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フロリストマイスターが教える 花の造形理論
第15回 構成のリズム
私たちは、さまざまな用途で商品や作品を制作します。植物材料をどのように組み立てれば、思い描くテーマが達成できるのでしょうか。
今回は構成のリズムという観点から、材料の並べ方や構成の違いで、見え方や表現にどんな変化が生まれるかについて考えます。
【 静的なリズムを持つ構成 】
材料の並べ方と構成には大別して2通りあります。1つは、静的なリズムを持つ構成です。下の図Aのような並び方は、静的なリズムを持ち、整然とした規律があり、誠実な印象を与えます。
A1、A2……と、使用する材料の形や配置の高さの違いなどによってバリエーションが考えられます。
要素の変化が大きくなるにつれて、図Aが持つ基本イメージ、静的な印象は弱くなります。
【 動的なリズムを持つ構成 】
一方、図Bで示される並び方は、要素同士の間隔が異なり、動的で自由なリズムを持ち、遊び心のある楽しげな印象です。この並び方にもバリエーションが存在するので、制作者が表現したいテーマに合わせた構成を考えることが必要です。要素の変化が大きくなるにつれて、図Bが持つ基本イメージ、動的な印象は強くなります。
私たちフロリストの造形材料である花や植物は、幾何学的で人工的な造形要素と違い、一つひとつの素材に独自の個性があります。
それため比較的簡単に、作品としての面白みを出すことができるかもしれません。
例えば、図Aの配置を同じ色のカーネーションを使って構成したとします。
植物は一つとして同じ形のものは存在しないので、同じ並びであっても変化や面白みが生じます。
しかし違う角度から考えると、機械的で人工的なイメージが欲しい場合には、その性質が邪魔をするともいえるでしょう。
生き物である植物の性質を、表現の方向性によってどのように足したり引いいたりするか。
これも、植物の造形において、大変興味深く楽しい作業です。
花束やアレンジメント、リースや空間装飾まで、すべての植物造形にはテーマに応じて制作者が選択した構成の種類があります。
素晴らしいと感じる商品や作品に出会ったら、しっかり観察しましょう。
なぜそのような形・構成になっているのか?お客様の希望や達成すべき制作テーマに沿った構成の理由が、必ず含まれているはずです。
作例1
静的なリズムを持つ構成
— 春の垣根をテーマに —
規則的なリズムを持ち、人工的なイメージの垣根を春の材料で表現。
小刻みの連続性と静的で上品な印象を表すため、全体の色を抑えて彩度を下げることを考えた。
これに合うキャラクターのキクをメイン材料として選択。
茎を長めに使い、パラレルに構成することで静的な印象を打ち出した。
皇帝ダリアの節と茎で全体の流れの調和をとっている。上に伸びるムギが、春の生命力を象徴。
Flower&Green
皇帝ダリア、キク、ムギ、トクサ、ススキ、オオデマリ(枯れ葉)
作例1の構成図
制作のポイント
キクの規則正しいリズムにトクサが加わり直線を強調。ここに特徴のある皇帝ダリアの節と茎を合わせて調和をとる。それだけではかたい印象になるので、ススキの曲線で柔らかさをプラス。
作例2
動的なリズムを持つ構成
— 春のパーティーをテーマに —
Flower&Green
チューリップ、ラナンキュラス、ビバーナム、マメの花、ユーカリ、ヤナギ、レースフラワー、ツゲ、エニシダ、イトススキ、カヤ、ロウバイ(枯れ枝)
作例2の構成図
制作のポイント
チューリップとラナンキュラスは高低差をつけて配置し、ビバーナムを足元に低く入れて締める。全体に断続的な印象にならないよう、イトススキでつなげることが大切。
今回のまとめ
構成のリズムとは?・材料の配置・並べ方によって生まれる、テーマを達成するために必要な要素。
・すべての作品や商品制作の過程には、テーマに応じて作者が選択した構成のリズムがある。
・静的、または動的なリズム持つ構成があり、前者は規律があり誠実な印象。後者は遊び心のある楽しげな印象。
・静的にするか動的か、制作者が表現したいテーマに合わせて、構成のバリエーションを考える。要素の変化が大きくなると、それぞれの基本イメージにも変化が加わる。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
Information
この連載を一冊にまとめた『花の造形理論基礎レッスン』が誠文堂新光社から2020年6月に刊行予定です!ご期待ください。
橋口さんのドイツフロリストマイスター理論がわかるリースの制作法
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。