植物生活編集部 植物生活編集部 2019/10/09

ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 16 材料の量


フロリストマイスターが教える 花の造形理論 第16回

花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。

造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。

毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。

フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。

まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介する連載です。


これまでの連載はこちらから



フロリストマイスターが教える 花の造形理論 
第16回  制作物のテーマや表現によって変わる、材料の量

これまで、植物材料の構成の考え方についてさまざまな観点から解説してきました。
今回はテーマを「材料の量」として、花材を多く使う作品と、少なく使う作品の違いを説明します。

花束でもアレンジメントを制作するときでも、材料を選ぶ際の要件の一つに、材料の量が挙げられます。
あの花を何本、この葉物を何本、3,000円の注文だからこのくらいの本数……。
花材は多ければ多いほどよいのでしょうか?決してそうではなく、材料の本数が少なくても満足度の高い作品を制作することは可能です。 
 

目指す表現に応じて材料の量を選択

材料を多く使用すると、色や形の集合によって華やかさやボリュームが出て、装飾性、力強さ、豊かさなどのイメージが表現できます。
植物の生長が顕著に表れる枝や蔓性の植物なども、量を多く使えば線としての特徴は失われ、重なりの部分からストラクチャー・構造としての面白さが表れてきます。
華やかさや豪華さを見せる表現、色を強調する表現、コンパクトな輪郭を持つ構成に向き、開店やお祝いのスタンド花などがその例です。

材料を少なく使用した場合は、構成はシンプルになります。
その分、材料の持つ形や動き、線、植物の生長の様子が目立ってきます。
材料同士が間隔をあけて配置されるので緊張感が生まれ、空間による表現も可能となります。
個性的で主張の強い材料を強調したいとき、材料の線や動きを見せたいとき、空間を捉えた緊張感のある表現が必要なときにふさわしく、一般的ないけばななどは好例です。
 

多くするか少なくするか、明確な判断が大切

材料の量の選択は、制作物の用途や表現のテーマによって明確に判断、決定されなければなりません。
どのような印象を伝えたいかを考えながら行うことが重要です。
その選択と決断が曖昧になると、制作物のテーマや表現が伝わりにくくなることはもちろん、作品として、商品としての満足度が減り、物足りなさを感じさることにもなります。

作品や商品制作では、用途、テーマ、表現の方向性によって明確に決めるべき項目があります。
それをまとめたのが以下の表です。
材料の量も、その項目の一つです。
このような選択・決定は、作品や商品を制作する前に決めておく場合もありますが、制作の途中で決まる場合もあります。いずれにせよ完成までには、その理由と共に決めなければなりません。

各項目の意味を理解し、世の中に存在する美しい植物の造形、デザインを眺めてみれば、制作者がなぜその選択をしたのか、どんな意味を持って決断されたものなのかが、見えてくるかもしれません。

 

作例1

凛としたスイセンの美しさを魅せる
— 材料を少なく使った例 —



春の花、スイセンのすっとした直線的な美しさを表現したいと思い、制作した花束。スイセンの生長の姿を魅せるために材料はそぎ落とし、空間を捉えたシンプルな構成にした。線的な要素を強調する材料としてトクサを選択。横に振りだすのびやかな動きと、高く伸びる芽吹いたネコヤナギの枝が、スイセンの個性を引き立てている。

Flower&Green
スイセン、トクサ、ネコヤナギ、ヤツデ、ガマズミ、カレックス


制作のポイント


上から見た様子。束ねるテクニックはスパイラル。花器に生けたときのことを考え、後ろにも材料を入れて180度展開で作っている。こうすることで花束が器の縁に引っかかり、飾りやすくなる。

 

作例2

春の明るいイメージを表現
— 材料を多く使った例 —



上の作品と同じく、主役の花はスイセン。こちらは、花の色や形のかわいらしさと花弁の繊細な質感を魅せることをテーマにした花束。春の色彩豊かで賑やかな雰囲気を表現するため、コンパクトなラウンドの花束にし、装飾的に仕上げた。材料は空間を詰めて配置し、花束の輪郭をはっきりとさせることで、色と質感を強調している。

Flower&Green
スイセン(2種)、スイートピー、ミモザ、ガマズミ、ヤナギ、ローズマリー、ユーカリ、キンカン、ヤツデ、レモンリーフ、タイム、カレックス

制作のポイント



スイセンは黄1色のものと、オレンジが混じったものの2種類を用意。スイセンの色にリンクさせてミモザを合わせ、締めの色として加えているガマズミの茶色からピンクのスイートピーへとつなげた。冬の要素は入れずに、華やかで明るいイメージに。
 

今回のまとめ

材料の量とは?
・花の種類や色などと並び、材料を選ぶ際の要件の一つ。目指す表現によって多くするか少なくするかを選択する。
・材料を多く使用すると華やかさやボリュームが出て、装飾性、力強さ、豊かさなどのイメージが表現できる。
・少なく使用した場合は、材料の持つ形や動き、線、植物の生長の様子が際立つ。空間を使った表現も可能に。
・材料の量の選択は、制作物の用途や表現のテーマによって明確に判断する。曖昧になるとテーマや表現が伝わりにくくなり、作品・商品としての満足度が減る。


写真/中島清一 月刊フローリスト

講師
橋口 学  Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰。 植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
 

この連載を含む、橋口さんの造形理論基礎レッスンがついに、一冊の本になります!

フロリストマイスターが教える 『花の造形理論基礎レッスン』6月刊行予定

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