植物生活編集部 植物生活編集部 87ヶ月前

これが本当の「スワッグ」の歴史 [03]

キリスト教とスワッグ


ドライフラワーは乾燥させるために吊します。
ここから生まれたのがハンギング・バンチと呼ばれる装飾方法ですが、
いまではスワッグの一種と言われています。

伝統的な花材は薬となるハーブや命をつなぐムギ。
ハーブは中世時代から壁や暖炉のそばに吊され部屋の空気の清浄に使い、
ムギの束には古代から豊作と子孫繁栄をかなえてくれる霊がいると信じられています。

キリスト教になってからも、最初に刈り取ったムギの束は教会のミサでキリストに捧げられました。
ドイツ風とされる”クリスマスの常緑樹を束ねるスワッグ”が注目されだしたのはここ二十年ほどですが、
リースの陰に隠れて目立たなかっただけで二十世紀のイギリスやアメリカでも作られてました。

キリスト教以前のケルト文化では、
樹木信仰から冬至に常緑の小枝を戸口に吊るして悪霊が入るのを拒みつつ、
太陽の生命力を家に呼び込むものとして飾られました。

その後キリスト教が布教されると、
教会はそれらの小枝はキリストの誕生を祝うものと教え説きました。
クリスマスに常緑の小枝を束ねて飾ることは神聖なこととする裏面で、
古くからの慣習はそれが一家の魔除けでもあることも伝えていきました。

こうしてキリスト教徒でありながらも深層ではケルト文化が存在する、
ドイツやイギリス、アイルランド、そしてその移民の地アメリカでは枝を飾る伝統が息づいていったのです。

1936年、マツとマツの実を赤いリボンで束ねた飾りが紹介され、
「玄関の中や農村の教会にふさわしい」とこの飾りの素朴さをとらえています。(写真右)

1964年には、二本のセイヨウヒイラギが教会の柱から吊るされていて、
フォーマルな場を得たことが伺えます。(写真左)

しかし、近年ドイツから広まった飾りには洗練さでとても及びません。
ドイツの素晴らしい花束技術が、さりげないのに印象深いスワッグを作り出しているのです。
ワイヤーがなく環境に優しいし、枝や実の自然な曲がりや手触りを十分楽しめます。
自由なデザインと短い制作時間。
長所ばかりですが、素材の選択や束の組み立てにはセンスと技術が必要です。
時代のニーズとともにスワッグの意味が変遷し、
多様な花装飾を含むことで実態があいまいになってしまいました。
しかし、古典的なエレガントさ、絶妙なバランス、
そして飾られた場所を華やかで祝祭にふさわしく盛り上げるパワーはどのスワッグも共有しています。
 
text & photo 月刊フローリスト
 
書いた人
伊達けい子 
津田塾大学大学院卒業後、ロンドンのコンスタンス・スプライ・フラワースクール卒業。テクノ・ホルティ園芸専門学校講師。
 
これが本当の「スワッグ」の歴史 vol.1
これが本当の「スワッグ」の歴史 vol.2






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