植物生活編集部 植物生活編集部 60ヶ月前

歴史で学ぶ!スワッグのマニアックな話。


ちょっと難しめの話ですが。

スワッグやリース。ガーランド。すでに私たちにはおなじみですが、語源や由来などを知っているとさらに植物生活もさらに奥行きが出ることと思います。日常会話でさらっと知識を披露するためにここはがっつり勉強してみましょう!
 

ガーランド・神々への供物から祝祭の飾りへ 

ガーランド(garland)は花や葉を編んだり糸でつないだ紐あるいは綱をいいます。
古代エジプトの人々は神々に美しくかぐわしい花を供えてきました。
それは、花は神を喜ばせると信じていたからです。

ガーランドを神の像の手や首に掛けたり、いけにえの動物に巻きつけたりするには都合の良い造形だったのです。
では、この造形はどうして生まれたのでしょう? 

一説としては、紀元前二千年頃に神殿の柱や壁に描かれていたスイレンの連続模様の具現化だと考えられます。
スイレンは、太陽とともに花が開閉することから太陽神のシンボルとなり、不滅の生命を表していました。
この模様の規則的連続性を手本にしてガーランドは作られたのでしょうか。

 紀元前千五百年頃になると、ガーランドは死者の復活を祈るために、ミイラの首のまわりや柩(ひつぎ)の上に何重にも巻かれるようになりました。
ラムセス二世の場合、ガーランドに編まれた植物はヤナギ、スイレン、ラクスパーでした。

 神の像やいけにえ、ミイラに飾られたエジプトのガーランドは、ギリシャ・ローマ時代になると、生きた人間のために祭りや宴会を盛り上げました。

紀元七十九年に火山が噴火して埋もれたポンペイ遺跡では、切り花専用の栽培地があり、バラ、スミレ、カーネーションなどのかぐわしい花でガーランドを作る商売が行われていたことが知られています。

遺跡の壁画には、ガーランド商人の家で女性たちが花のガーランドを作り、スタンドに掛けている姿も描写されています。

栽培は男性が担当し、制作と売り子は女性たちの役割でした。

ローマ帝国で頂点を極めたガーランドはキリスト教布教の時代には異教のシンボルとして禁止されていましたが、キリスト教が確固としたものとなると祝祭の花飾りとして許容されることに。

人々が自然と交流する五月祭や夏至祭、収穫祭など民俗的な祭(フェスタ)ではガーランドにリボンや果物、木の実が加わってフェスツーン(festoon)と呼ばました。

そしてこのフェスツーンは、十七世紀には英語となり、装飾的なガーランドを意味していたのです。

宴会のガーランドは十八世紀半ばの新古典主義芸術でリバイバルし、上流階級の舞踏会や大宴会では数百メートルのガーランドが天井からぶら下がり、古典的な丸い柱を伝わっていました。


こうした世俗的な定着を背景にして当初は消極的だった教会にもクリスマスやイースターに常緑のガーランドが飾られるようになった。
今ではクリスマスになるとヨーロッパの街角では常緑のガーランドが風物詩となっている。


最後に付け加えると、ガーランドは東南アジアや太平洋の島へ歴史的展開を見せ始めました。
紀元前千五百年頃、インドに侵入したアーリア人が伝えたせいか、その定説はありませんが、ヒンズー教では紀元前千年頃から神への供物、歓迎や愛の印としてガーランドは欠かせないものに。

さらにインド商人によってタイやフィリピン、タヒチ、ポリネシアに広まり、その土地の宗教と深く関わったのです。
その一例がハワイの「レイ」で、悪霊払いから変化して戦後は歓迎の印となって観光客の首に掛けられています。


 

リース・端正な円形は生命の永遠のしるし

リース(wreath)は短いガーランドを円形にしたものを言います。
古代ギリシャ人が初めに考えたリースは頭にかぶる花冠(crown)でした。
花冠といっても葉の冠も含み、権威の印として神の像や生きている人間のために作られたのです。 
 
温暖なギリシャではそれぞれの神々を象徴する植物があり、例えば全能の神ゼウスはカーネーション、知恵と勝利の神アテネはオリーブ、愛と美の神アフロディーテはギンバイカ、競技と音楽、詩の神アポロはゲッケイジュとされています。
神の像の頭にはその植物のリースが飾られ、神殿に参拝する信者たちも同じものをかぶりました。

宗教儀式のほかに、人間中心の民主主義社会では優秀な知識人や競技や戦いの勝利者は存分に褒め称えられ、その権威づけのために花冠が授けられました。
生命力が強い常緑樹の冠は最も価値があるとされ、栄誉の印としてゲッケイジュやオリーブ、ナツメヤシ、ギンバイカを使っていたことも明らかにされています。

やがてギリシャ末期からローマ時代になると一般の人まで花の利用は広がり、社交用にバラやスミレ、ユリなど華やかで香りのいい花の冠が作られ富裕層は冠を編む職人を何人も屋敷に雇っていました。




ドアや壁に掛けるリースはこの頃に生まれました。
結婚や出産を知らせるドアリース、船出のリース、墓のリース、宴会のリース、贈答品にもされ、さまざまな機会に飾られたのです。

この時代のリースの意味合いは魔除けであったり、神の依り代であったと考えられます。

リースもガーランドと同じくローマ帝国の崩壊後、キリスト教会によって排斥されましたが中世の終わり頃には認められるようになりました。



 クリスマスリースは、ローマ時代に太陽神を祝う冬至祭で強い生命力を感じさせる常緑樹のリースを魔除けに飾ったことが起源に。
教会はそれをキリスト教的に解釈して「常緑はキリストの命の強さを円形は命の永遠を表す」としました。

葬儀のリースは十九世紀半ばまでは常緑でしたが、花産業の発展で二十世紀初めからは華やかな色花も使われています。
祝いのリースと区別がつきにくいけれど、生花の大きめのリースはだいたい葬儀用です。

リースの端正な円形は追悼式でよく見るようなフォーマルな造形ですが、素材によっては歓迎や季節の行事を表すカジュアルな飾りにもなります。
吸水性スポンジや蔓、ワイヤーなどのリースベースが売られているので便利で用途も広いのです。

リースのもともとのはじまりだった花冠は、ギリシャ・ローマ時代に全盛を終えた後、十四世紀のパリでギルド(職人組合)を結成するまで社交界で盛り返したが、貴族たちは花よりも宝石の冠に価値を置くようになり廃れてしまいました。
現在は花嫁の髪飾りの花輪(サークレットcirclet)とマラソン競技の優勝者に捧げるゲッケイジュの冠として見られるくらいに。



スワッグ・懐かしく素朴な花飾り

スワッグ(swag)は、イギリスに十六世紀に入ってきた北欧の言葉で「揺れるもの」とか「垂れ下がるもの」を指したが、十八世紀末頃の新古典主義時代に教会の祭壇や柱、家の壁や暖炉を飾ったフェスツーンをスワッグとも呼ぶようになりました。
壁に掛けた場合、横長のものは両端を固定すると重さでたわみ、縦長のものは揺れる。スワッグの語源はここからきています。

二十世紀になるとスワッグはフローリストの仕事になり、花持ちを良くするためにワイヤー製のフレームにミズゴケを詰めたベースが飾る場所に合わせて作られました。
用途はクリスマスの祭壇や暖炉飾りが多かったそうです。


時代が進むと生花のベースは吸水性スポンジに替わり、ラフィアをベースにしてドライフラワーやアーティフィシャルな素材を使ったスワッグも作られました。
これらはドアや部屋の壁飾りは、たいてい縦長のオーバル型のような長細い壁飾りだったのです。



束ねた花を吊るすタイプのスワッグは、いつ頃からどのように使われてきたのでしょうか?
ニューヨークで一九五八年に出版されたメイベル・スクイール著『The Art of Drying Plants & Flowers(ドライフラワーのアート)』にまさにそのスワッグが紹介されています。
ドライフラワーを束ねて吊るす飾りが、このタイプのスワッグの原点のようです。

この本ではアメリカのサンクスギビングデー(十一月第四木曜)にトウモロコシとムギ、ハーブのスワッグを
クリスマスに松の実のスワッグを紹介し「田舎風でオールドファッション」な花飾りとしています。




さらに、バランスさえ気をつければ素人でも作れること、お決まりのリースよりも隣近所から目立つこと、バリエーションがきくことを長所として挙げています。
写真のスワッグはドア飾りですが、暖炉の両側、窓と窓の間の狭いスペースに飾ることも勧めています。



歴史を振り返るとスワッグという名では呼ばれていませんが、ハーブは中世時代から壁や暖炉のそばに吊るして空気の清浄に使われ、ムギの束は収穫祭の飾りとされていました。
クリスマスの常緑樹の枝はキリスト教以前のドイツの冬至祭で戸口に飾られていましたが、キリスト教が布教されると教会は常緑の枝はキリストの誕生を祝うものと教え説き始めました。

束飾りには誰もが懐かしく感じる素朴さがあり、本で述べられているように誰でも作れて安上がりなので取り掛かりやすいという特徴があります。
ガーランドやリースに比べてスワッグは、時代の需要に応えて自由に形を変え現在に至っているといえます。あるときは華やかなフェスツーンであり、常緑の暖炉飾りであり、生花の長細いドア飾りであり、アーティフィシャルな果物を使ったオーバル型のキッチン飾りであり、そして、素朴な束飾りでもあるのです。
 
text/月刊フローリスト  文・取材/伊達けい子
 
伊達けい子 Keiko Date
津田塾大学大学院卒業後、ロンドンのコンスタンス・スプライ・フラワースクール卒業。テクノ・ホルティ園芸専門学校講師。小誌では『歴史を彩る花たち』(2004~2006)連載。
 
 







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