いしだわかこ いしだわかこ 65ヶ月前

香りで感じる、あたらしいおいしさ 〜香りをおいしく食べる方法


香りで感じる、あたらしいおいしさ 〜香りをおいしく食べる方法

「アロマは好きだけど、精油をいつも余らせてしまう」。
植物の恵みである精油。ところがフレグランスなどに使うのは1回に2〜3滴。
アロマテラピーなどで個人的に精油を使ってはいるものの、使い切れずに余らせてしまう人は多いのではないでしょうか。

その悩みを「食」に結びつけたのが、アロマセラピストであり、アロマブレンダーであるtomomiさん。

自身がブレンドした香り豊かなオーガニック・ハーブティーの販売や食品香料として考える精油の紹介、レシピ考案など、香りの啓蒙活動を幅広く行っているtomomiさんですが、中でも「精油を食品香料に使うためのレッスン」は毎回キャンセル待ちが出るほど大人気。

そこで、「香りをもっと広く味わってほしい」というtomomiさんに、「香り」と「味」についてお話を伺いました。
 

「食べてみよう」と思ったきっかけは

当時アロマショップ併設サロンに勤務していたtomomiさんは、毎日ショップに立つ中でふと、お客さまが同じ精油をリピートしないことに気がつきました。

「もしかしたら、使い切れていないのでは」。
と気になりながらも、独立して自らサロンを立ち上げることに。




精油は、ルームフレグランスや手作り化粧品、お風呂などに使うことが多いかと思いますが、そのほかに「食べる」という選択肢が増えれば使い道もぐっと広がり、余らせることが少なくなるはず。

そう思いあたったものの、前回の記事 にもあるように、バニラエッセンスを一瓶飲んでもおいしくはありません。

香りをおいしく食べるためには、やはり希釈をしなくては。どの素材で希釈するのがいいのか、加熱すると変わる香りはどのくらいの濃度にしたらいいのか。
香りを入れるタイミングや分量を、地道にコツコツと研究し続けたそう。
幸い実家が料理屋を営んでいたこともあって、食物の性質や食材を合わせるタイミングなどは経験で知っていたため、かなり早い段階でおいしく食べられる試作ができたとのこと。

 

「香り」をおいしく食べるポイントを聞いてきました


では、どうやったら「香りをおいしく食べる」ことができるのでしょうか。
ポイントとコツをtomomiさんに聞きました。



ポイント1:食べ慣れないお花やハーブの香りは、必ず食べ物の香りと合わせること。

桜のスコーンに添えた「ローズジャム」は、薔薇の香りが強すぎるとおいしいとは感じません。

食べ慣れたイチゴの味と香りがあって初めておいしく食べられるようになります。

例えばパクチーは今や香草のひとつとしておなじみになりましたが、食文化の中になじんでないうちはなかなか受け入れられませんでした。

まずは、「おいしい」と感じている食べ物の香りになじませながら使うこと。

自然の恵みである精油の香りが食材の味と香りを活かしながら後からふんわりと香料が薫ってくるので、食べやすい上にいつもとは違うおいしさを感じます。

ローズジャムの場合だと、苺の味と香りを味わっているうちに、だんだんと薔薇の香りが立ちのぼってくるんです。

「味」を決める要素は「香り」が大きく占めるとすると、後から別の香りがまとってくると2段階で別の味が楽しめることになります。

これは今までにない新しい体験!





ポイント2:まずは味見をすること

tomomiさん曰く、 「”香りを食用に使う”ことを考えたとき、いちばん足りていないのは味見。
ワインを嗜む方は良くご存知のようですが、鼻で嗅いだ時の印象と食べた時の印象が大きく違う香りがあり、味見は本当に大切です」。

お料理に香料を使って失敗する人の理由の多くは、「味を知らないままに使う」こと。
普段のお料理でも、いつものお醤油が切れて違うものを買った時に塩分濃度や風味の違いを知らないままに使っていては「いつもの味」にはなりません。

そして香りは、上記のように「鼻から嗅いだ香り」と「喉の奥から鼻に抜ける香り」では大きく違います。
香料の「喉から鼻に抜ける香り」を知らないままに使っていては、おいしい食事になるはずがありません。

tomomiさんのレッスンでは、使っている精油の全種類を、適正な濃度で味見をする時間を設けているそう。
まずは「食べたときの味」を知ること。

これは、通常のお料理でも言えることですね。




ポイント3:素材の特性を考える

レモングラスが薫るパスタを作る時は、製麺のときに精油をオリーブオイルに混ぜて練りこみます。

そうすると、噛み締めるとレモングラスが薫るおいしいパスタになります。

ラベンダーはドライハーブとしても精油としても手に入れやすいですが、ミルで細かく粉砕したラベンターパウダーなら、小麦粉に混ぜてラベンダークッキーが作れます。

ドライハーブはお茶にブレンドしてもおいしく飲めますね。

「精油を使うメリットは、食物繊維や色素などを残さず、クリアな香りだけを使えることです。
パスタに練り込む場合は、見た目には普通のパスタなのに食べると香りがするという、おいしい驚きにつながります。

デメリットとしては長時間の加熱よって香りが飛んでしまったり、変わってしまうものがあること。
ハーブと精油の両方が手に入る素材では、目的によって使い分けます。

例えば焼菓子だったら、ハーブをミルで砕いたものは粉類と一緒にふるい混ぜて使い、精油はアイシングに使うなど、どう使ったらその素材をいちばん効果的に使えるか考えます」 (tomomiさん)

その香料は何となじみやすいのか、何と相性がいいのかを考えると、香りがムラにならず、いちばんおいしい状態で食べることができます。


食品香料として使う場合の、精油を選ぶ注意点

精油を食品として摂取するのに、いちばん気がかりなのは安全性。
精油の文化が発達したヨーロッパなどでは食用の精油が多く販売され、家庭でも精油を料理に使うことは一般的。
ただ、日本で販売している精油の多くは海外からの輸入品。
関税などの問題で、「雑貨」として輸入されることがほとんどです。

たとえ本国では「食品」であっても、「雑貨」として輸入すると雑貨として販売されます。
逆に言えば、もともとは食品として育てられたハーブを、食品衛生の基準を満たした工場で製造してボトリングした精油は存在します。

例を上げるとパッケージにユーロリーフ(EUの有機農業規則に沿って生産された農産物であることを証明するマーク)がついているものはもともと食用で、化学農薬や添加物を厳しく制限し、遺伝子組換えでなく、定期的な管理がされている有機食品であることが証明されています。

レストランなどで提供する場合には食品添加物として輸入された精油をおすすめしていますが、輸入上の理由があり、日本では食品としてのなじみがないのです。

近年では、国産の「食品として扱える精油」を天然香料として販売しているメーカーも増えてきています。
精油を食品香料として扱うための知識が広まれば、輸入時に食品香料として扱えるような手続きをするメーカーも増えるかもしれません。
そうなったら、今よりもっと使いやすくなりますね。

例えばお醤油は塩分濃度が海水よりも高く、それを一気に飲んだら身体に危険があるのはご存知の通り。
しかし料理に適量を使えば味をぐんと整えてくれる、和食には欠かせない調味料です。
精油も同じように適正な量と濃度で少しずつ使えば、味と風味をぐんと豊かに広げてくれて、新しい味覚を生み出してくれるでしょう。



 

「香り」で毎日の食卓をぐんと豊かに

レストランやお茶やスパイスのメーカーなどの香りのアドバイザーとして活動もしているtomomiさん。

「香りが違うと、味もまったく変わってくるのでブレンドはとてもやりがいがあります。

日本酒にカモミールの香りを合わせると、甘く感じるんですよ。

お酒は使う銘柄によっても味が違ってくるのですごくおもしろいですね。
また、ラーメンの最後にレモングラスを香らせたり、ディルの香りをプラスしたクリームチーズとサーモンでサンドイッチを作ったり、使い方は無限にあります。

精油は種類が豊富です。
今までフレッシュやドライの状態で食卓に使われてきたハーブ・花の代用としてだけでなく、新しい野菜・調味料・素材として発展していくことで、新しい食文化が根付いてくれたら嬉しいです」

おいしい食べ物は世の中に数ありますが、「驚き」を感じさせてくれるものはなかなかないかもしれません。

高級レストランに行かなくても、毎日複雑な料理を作らなくても、香りを使えば日々の食生活がぐんと豊かになります。

植物の恵みである”香り”との組み合わせ、発展していけば食の世界が大きく広がりそうです。


(取材日:2018年3月25日 文章・イラスト:いしだわかこ)


■tomomi(ともみ) アロマショップにて9年勤務の後、独立。aromateabase運営のかたわら「薫るお菓子教室」などで精油を香料として扱う方法を教えている。都内、及び湘南地方での各講座のほか、個人レッスンのカリキュラムも用意。レッスン参加者の中には、レストランのシェフやパティシエ、アロマセラピストなど専門家も。「食と香り」や「アートと香り」などのイベントに協力するなど、「香りをおいしく食べる」普及活動を行っている。

■薫るお菓子とアロマティー aromateabase
香りを大切にするオーガニックハーブティーと、食品香料として考えるエッセンシャルオイル専門店。エッセンシャルオイル(精油)は、各講座にて希釈方法などを学んだ方向けに販売。

tomomiさんのレッスン詳細・お申し込みは、Facebookページにて。

Facebookページ:https://www.facebook.com/aromateabase/
Shop: https://aromateabase.thebase.in/

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この記事のライター

いしだわかこ
いしだわかこ

ぬいぐるみデザイナー、少女マンガ家、雑誌編集などを経てフリーランスへ。 編集・ライター、たまにイラストやマンガ、キャラクター制作、パンフレットなどの制作ディレクション、Webサイトのプロデュースなどのお仕事をしています。横浜・鎌倉を拠点にのんびり活動中。 好きなものはミステリーと少女漫画と手工芸。趣味は刺繍。担当書籍「最強のアンチエイジングは腸活だった!/辨野 義己(impress quickbooks)」ほか発売中。

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