河野 アミ 河野 アミ 35ヶ月前

草木をめぐる仕事 〈第1回・後編〉 荒良木つつじさん──造形作家「kokageya」店主




草や木、花や果実。植物といういのちと日々向き合い、親密な時間をともにする人々に話を聞くインタビュー連載『草木をめぐる仕事』。

北アルプスの山々に抱かれた信州・安曇野に店舗兼工房「kokageya」をかまえる造形作家・荒良木つつじさんへのインタビュー後編では、彼女の日々の原動力になっているという「kokageya」の話を中心に、“喜んでもらえることの喜び”を形にしたウエディング向けの制作やワークショップのこと、「一輪一輪に問いかけ、気持ちに応えながら作ることが大切」と語る作家としての信条や創作へのこだわりについてお届けします。


(文&写真=河野アミ)

前編はこちら→ 草木をめぐる仕事 〈第1回〉 荒良木つつじさん 前編


お客さんには、都会暮らしを経て自然の大切さを知った人が多い


──育児が「kokageya」開業のきっかけになったというのは?

子育てがあまりに大変で、育児ノイローゼになりかけているのは自分でもなんとなくわかっていたんですが、孫の顔を見にくる私の両親も「あの子ちょっとおかしいよね」と言い出して、自分だけの時間を持ったほうがいいのではということになったんです。それで1カ月後にお店をオープンしましょうと決まりまして。

急いで開業届を出し、三つ子が保育園に入れるよう市役所にお願いし、お店は昔から好きだった古道具とドライフラワーを扱うことに決め、とにかくリースを作らなければと父のキャンプ場で植物を採って車いっぱい持ち帰り、そこからは毎晩ひたすらリース作り。準備期間は楽しむ余裕ゼロでした(苦笑)。

──お店と子育てで、さらに大変になりませんでしたか?

それが、自分の時間を持つことで精神的にリフレッシュできたんです。自分が作ったもので喜んでもらえることが生きがいになるんですよね。子育ては大変だけれども、私が作ったものを喜んでくださる方がいて、私の生きがいを認めてくださる方がいる。私の日々の原動力になりました。

──ちょっと意外なのが、「kokageya」はネット経由でのオーダー制作だけでなく、店舗に足を運ぶ地元のお客さんも多いですよね? 自然に恵まれた安曇野で、自然素材で作られたリースを求める人がいるんだなと。

それが意外といたんですよ。冬やクリスマスはまだしも、うちは一年を通してリース屋さんなので、春や夏はどうするんだろう?と思いながら作り続けていたんですけど、通年、求めてくださる方がいて。

安曇野って、いったん都会に出てまた戻ってきた方とか、都会から移り住んできた方が多いんですよね。都会で暮らしていたからこそ自然の大切さを感じている方が、うちのお客さんには多いです。



──「kokageya」がスタートして4年半。現在はドライフラワーを使ったウェディング・アイテムの制作も精力的ですね。

ウエディングについては需要が増えてきたのと、今年から「kokageya」を会社にして、主人と二人でやることにしたんですね。彼は(作品を収める)蝋引き箱の制作をしてるんですが、その仕事がだんだん忙しくなってきて、本業との兼ね合いが難しくなってきたんです。

それで二人で会社を立ち上げて、家業としてしっかりやっていこう、ウエディングのほうも仕事としてしっかりやろうと。ただ、趣味で始めた「kokageya」は私自身の癒やしの場でもあって、植物が自然と朽ちていく過程も含めて楽しんでほしいという思いがあるのに対して、「kokageyaウエディング」のほうはプレゼント品ということもあって、できるだけ長く色を残せるようプリザーブド(※花を脱色・着色する製法)も選択肢に入れ、希望に応じてピンクや水色などのパステルカラーも使うんですね。

どちらも私が作るものではあるんですけど、趣味が全開の「kokageya」と、お客様に喜んでいただくことを主眼とした「kokageyaウエディング」は、どうしても一つに括れないところがあるんです。なので、今は二つの世界を並行してやっていけるように環境を整えているところです。




──なんというかこう、子ども時代に育まれた作家精神や、テレビの仕事で知った他者の希望やニーズに応える喜びといったものが、ここにきて一つにまとまってきた感じですね。これまでの人生で栄養をたっぷり蓄えてきた種が、いよいよ花を咲かそうとしている感じ。

フジテレビ時代のまだ下っ端だった頃、私は草花が本当に好きで、仕事でも草花ばかり使っていたんですよ。そうしたら先輩に「クライアントがいることを頭において作りなさい」と言われたんです。なるほど、今は私が好きなものだけを作る時期じゃないんだなと。

クライアントがいる作品と、自分の世界を表現する作品というのは違うんだなと学びました。最初はどうしたらいいのか困ったんですけど、おそらく自然と身についたんでしょうね。今はまったく無理をせずに作り分けられるというか、両方をできるようになって。

私は、自分が作家であるという意識はあまりないんです。作家というのは作品づくりの工程を人に教えるのを好まなかったり、教える行為自体が得意ではなかったりもするので、「ワークショップをやる作家さんは少ないよ」と言われたことがあるんですね。でも私のなかには、お客さんのニーズや「こういうものがほしい、作りたい」という要望に応えたい気持ちもある。だからワークショップもやりたいし、同時に、自分の作りたいものも作りたい。

子育てをしながら自分のやりたいことを思いきりやれていることが、今はすごく楽しいです。

──百貨店のイベントや企画展への出展も多いですが、今後の具体的な展望はありますか?

全然ないです(笑)。そんなに大きくしたくないんです。ほどほどがいい。忙しいのは好きなんですけど、自分がわがままなこともわかっていて、やりたいことができなくなることはすごくストレスなんです。

家業になったので拡大していく方向ではあるんですけど、私の目の届く範囲でみなさんが喜んでくれたらいいなという大きさです。あとは、子ども4人それぞれが私のやっていることに興味を示してくれているので、いつか誰かがこの仕事を受け継いでくれて、一緒に「kokageya」をやることになったらいいな、とか。今はそれくらいの小さな夢です。



自然の中で植物がどう芽を出し、花を付けるかを知らなければ、リースも作れない


──荒良木さんが一番好きな植物はなんですか?

野花です。お花屋さんに売られていない花。野の花はちっちゃくて全然主張してこないですよね。その可憐さや儚さが可愛いなぁと。ドライフラワーも同じで、儚いものにキュンとするんです。

──草花と接する時や、作品づくりで大切にしていることはありますか?

そうですね・・・言葉にするのは難しいです。この気持ちはなんて言ったらいいんだろう? 作品を作る時にいつも思うのは、「一つにひとり」というか・・・。

── 一つにひとり?

リースを作る時に「あなたはどっちを向きたい?」って、(花に)いつも尋ねるんですよ。彼女がどちらを向くかによってリース全体の雰囲気が変わってくるし、お花同士がケンカしたりもするんです。「あなたはもうちょっとあっちを向いてよ」とか「私はこの人の隣にいたいのに」とか(笑)。

だから彼女が彼女らしく輝くようにと、ものすごく考えて作ってます。彼女がそこで気持ちがよければ隣の彼女も輝けるし、その隣の彼女も・・・というのを繰り返していくことで、それが輪となり、最終的にリースになる。そうやって一人ひとりと向き合いながら最後まで作ることができれば、どこを見ても、どの子を見ても可愛い。雑な気持ちで作ると本当にひどい作品になるんですよ。



──荒良木さんがどう作りたいかではなく、草花がどうしたいか。

作っている最中はそういう感じですね。リースで使う花は、いったん(幹や枝から)摘んだり取ったりしたものだから、再び輝かせるためにはつねに一人ひとりに問いかけながら作ることが大切なんです。そして自然の中でその植物がどんなふうに芽を出し、どっちを向いて葉っぱが育ち、どっち向きに花が付くのかをしっかり頭においていないと、こういったリースは作れないとも思うんですよね。

──とても謙虚な感じがします。

主役は私ではなく、一輪一輪なので。彼女たちの気持ちに応えながら作らないと私自身も満足する作品にならないし、「ごめんね」ってなっちゃうこともいっぱいある。彼女たちのことを一生懸命に考えながら作ってます。

──そうやって植物と向き合いながら作品を作る荒良木さんの姿は、お父さんにどう映っているのでしょうね。自分と近い道を進んだわけですし。

楽しみにしてくれてるかな。やりたいことが山のようにある人なので、私がどんなふうにしているかは、たまに聞いてくるくらいですけど。

私が結婚する時にひとことだけ言ったのが、「おまえらしく生きろ」だったんです。たまに思い出すんですよ。自分らしく生きるってどういうことかなって。父はとても自分らしく、やりたいことをまっとうして生きているので、私もそういうふうに好きなことをやって生きていきたいと思ってます。



■お話をうかがった人
荒良木つつじ ARAKI TSUTSUJI  

造形作家。長野県出身。フジテレビ美術部・京花園で生花装飾を学び、テレビ番組(「SMAP×SMAP」内コーナー「BISTRO SMAP」、「エンジン」「離婚弁護士」などのドラマほか)や、舞台の生花装飾を手がける。その後OLCグリーン&アーツ装飾部で東京ディズニーランド、東京ディズニーシー、関連ホテル内外の装飾を担当。2013年12月、長野・安曇野に植物による造形作品と古道具を扱う店舗兼工房「kokageya」を開業する。「kokageya」という名前は、柔らかな日差しがさらさらと差し込む静かな木陰と彼女のイメージを重ね、親友が考案。季節の自然素材を用いたリース、ランプシェード、オブジェなどを制作販売するほか、ウエディング・アイテムのオーダーや店舗などの空間装飾、ワークショップの企画も行う。

ホームページ http://kokageya.jp
Instagram https://www.instagram.com/kokageya/

<お知らせ> 今夏は、伊勢丹新宿店「新宿乙女雑貨店」企画(7/25~8/7)、銀座三越(8/22~9/4)をはじめ、イベントや企画展に出展予定。

 
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この記事のライター

河野 アミ
河野 アミ

河野アミ 編集者&ライター。 東京と安曇野を行ったり来たりしながら、ミュージシャンのインタビューから人々の暮らしにまつわるあれこれまで、幅広く聞いたり書いたり作ったりしています。企画編集した主な本は、サンプラザ中野くん「125歳まで楽しく生きる健幸大作戦」(ファミマドットコム)、関由香「ふてやすみ」(玄光社)、美奈子アルケトビ「Life in the Desert 砂漠に棲む」(玄光社)、高嶋綾也「Peaceful Cuisine ベジタリアン・レシピブック」(玄光社)など。

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