河野 アミ 河野 アミ 25ヶ月前

草木をめぐる仕事〈第2回・前編〉 田澤康彦さん、田澤苺禾さん──草木染め作家&デザイナー「solosolo」



草や木、花や果実。植物といういのちと日々向き合い、親密な時間をともにする人々に話を聞くインタビュー連載『草木をめぐる仕事』。第2回は、長野・大町市から草木染めの魅力を伝える、草木染め作家&デザイナーユニット「solosolo」の田澤康彦さん、苺禾(まいか)さん夫妻にお話をうかがいます。

食の世界に携わっていた康彦さんと、グラフィックデザインの仕事をしていた苺禾さんが東京から大町に移り住んだのは、7年前の2011年。以来、康彦さんは草木染めを、苺禾さんはグラフィックから服飾デザインまでを手がけるようになり、草木染めの衣服や雑貨を中心に創作活動をしています。

solosoloというユニット名は、ゆったりとした動作を表す「そろりそろり」という言葉に、二人三脚でありつつも互いにもたれることなく、ソロ=ひとりでも動いていこう!という気持ちをプラスして命名したのだとか。その名のとおり、おふたりは草木染めを中心に据えながらも、染色とデザインと持ち場をゆるやかに分け、互いの個性や好奇心を掛け合わせながら活動の幅を広げています。

インタビュー前編では、康彦さんと苺禾さんが草木染めを始めたきっかけや、探求するほどに発見があるという「植物で染めること」の面白さ、草木染め製品をより楽しんでもらう工夫など、おふたりの草木染めをめぐる思いにフォーカスします。

(文&写真=河野アミ)


生まれてくる赤ちゃんの肌着を染めたかった


──おふたりは元々、東京で暮らしていたんですよね。康彦さんは料理、苺禾さんはグラフィックデザインの仕事をされていて。それが2011年に長野の大町に移住、草木染めを軸に仕事を始められた。草木染めを始めるきっかけは、どういうものだったんですか?

苺禾さん:
東京にいた頃に、私が自宅のキッチンで染めたのが最初です。赤ちゃんが生まれることがわかって、その肌着を染めたくて。

康彦さん:
その後、旅行に行ったときに、染色体験に参加したんです。体験だから時間はそれほど長くなかったんですけど、彼女が染めたい衣類をたくさん持ってきていたので、僕も一生懸命やって(笑)。そうしたらなぜか、工房の人からプロが染めるコーナーに呼ばれたんですよ。こっちでやれと。

──腕を見込まれた?

康彦さん:
どうなんでしょう(笑)。ただ、手を動かすのは好きなんです。染めは、料理の仕事と似たところもあるんですよね。草だったり食材だったりを刻んで、鍋に入れて、煮込んで、味付けをする。シンクや作業台があって、水を使いながら作業するところも同じ。訴える先が視覚か味覚かという違いはありますけど。染色体験に参加するまでに(苺禾さんの作業を見て)草木染めの基本的な流れはなんとなくわかっていたし、自分で実際にやってみて、いいなと思った記憶はありますね。


草木染めは、やればやるだけ課題や発見がある


──草木染めとは、「生のままや乾燥させた植物を煮出した汁で布を染め、ミョウバンなどで色を定着させる染め方」という理解であってますか?

康彦さん:
基本的にはそうです。植物によって乾燥させたほうがいいもの、乾燥させないほうがいいものがあったり、染める布も、あらかじめ水に浸しておくのがいいものもあれば、煮たり、煮てはダメなものもあって。基本はあくまで基本。ものによって、場合によって違ってきます。

苺禾さん:
うちでは薪で煮出すところを大事にしているんだよね。

康彦さん:
植物によっては何度かくり返し煮出すことができるものもあって、アカネも、1番液、2番液・・・5番液くらいまで使えるんですね。で、それぞれ色味が違う。最初のほうは茶味が強く、だんだんと黄味の強い赤になって、次第に黄味の抜けた赤い染液が採れるようになっていくんです。



──媒染剤にも種類があるんですよね。これも染まる色にかなり影響するわけですか?

康彦さん:
ミョウバンだったらアルミ、ほかに鉄媒染、銅媒染などもあって、金属の種類によって発色の仕方は変わります。そもそも染料となる植物を煮出して水に移すということは、色素は水溶性なんです。だから布を染液に浸して乾かしただけの状態だと、洗えばまた色素は水のほうに戻ってしまう。それを水に溶けないようにするのが媒染という作業の基本です。





──色素と金属が反応して、色が布に定着する。

康彦さん:
そうです。そしてさらに細かく見ていくと、金属のイオンと、色素などの植物のイオンというのは真逆のもので、プラスとマイナスが互いに引き合う電磁気力によって、色素は生地に入っていく。つまり、結合する力が強ければ強いほど濃い色に染まるんです。

たとえば鉄媒染にすると暗い色、渋い色になり、ミョウバンでやると明るい色になるんですね。なので、この製品に鉄媒染だとちょっと暗すぎるから、ほかの媒染にする・・・ということもあります。

──うかがっていると、草木染めの面白さというのは、基本的なお約束はありつつもパターン化できない、自由度の高さなのかなと。

康彦さん:
やってもやっても課題が出てくるというか、試したい可能性が次から次に出てくるところですね。見た目の色は同じでも、染め方が変わることで色落ちの速度が違ってきたり、アプローチを変えても同じ色にもっていけたりもする。染色の仕事を始めて7年ですけど、やればやるだけ課題や発見があるんですよ。

たとえば平安時代頃の草木染めがどういう染め方をされていたかって、具体的なところは今もわかっていないんです。

──そうなんですか!?

康彦さん:
現代になってから、平安時代頃の着物かなにかの一部を、化学染料を使って修復したらしいんです。それで、温度、湿度、光を管理した状態で保存していたところ、化学染料で染め直した部分の色は抜けちゃって、1000年前に染めたところの色は変わらず残っていたそうなんです。

──でも、退色しない理由は、はっきりとはわからないと・・・。草木染めというのは煎じ詰めると、出したい色を出すことと、色を長持ちさせることが2大テーマですか?

康彦さん:
よく洗う、洗わない、擦れやすい、擦れにくい、光にあたる、あたらないといった、ものとしての用途や保管の違いによって変わりますけど、製品作りをする上でのテーマではありますね。

苺禾さん:
私たちの場合は、基本的に日常で使うものを作っていることが大きいですね。solosoloが作るものは「暮らし」がベースにあって、その色づけをするものとしての草木染めなんです。だから洗濯や汗、陽射しといったことは、どうしても考える必要があるんですよね。

──草木染めは、色落ちや褪せも味わいのように思うんですが、そうもいかないですか。

苺禾さん:
うーん、「落ちちゃうんですよね?」と言われることも多いので(苦笑)。ただ、私自身は「なぜ落ちてはいけないんだろう?」と思うようになってきたんです。お客さんに届けるときに、色が落ちるのは悪いことじゃないという伝え方ができないかなと。それこそ色落ちも味わいというか、色の変化を楽しく感じられたらいいのにって。

なので、木版プリントの生地を染めた服を作り始めたのは、「落ちても楽しいよ」という提案でもあるんです。インドの職人さんが木のはんこでプリントした単色の生地を仕入れて、それを布染めしてるんですね。元の生地の色と草木染めした色が重なってて、色が落ちていくことで変化が楽しめる。



苺禾さん:
もちろん、最初に見て気に入った色のまま使い続けられる良さというのもあるので、彼(康彦さん)がそこをテーマにするのは当然だと思うんです。そのテーマを突き詰めるのが、染色家としての楽しみの一つでもあると思うので。ただ、色が落ちていく草木染めの特徴をマイナスではなく、もっとポジティブに見てもらえるにはどうしたらいいだろうと考えるのが、私の役割かなと思ってるんですよね。


染料は煮汁。染めは工程も心地いい


──苺禾さんにとっての草木染めの面白さは、どんなところですか?

苺禾さん:
私は、草木染めの色の優しさが好きなんです。パッと見るとピンク色でも、そこには黄色だったり、赤だったり、青だったり、植物が持ついろいろな色素が含まれていて、それらが合わさってピンクのような色合いに見えてる。色味が複雑で深いんです。だから室内で見るときと陽射しの下で見るときでは違う色に見えたりもするし、色幅があるからほかの色とも合わせやすく、誰にでも合う。色でいうと、そういうところが面白いかな。それから、染めの工程が心地いい。

康彦さん:
香りもいいしね。

苺禾さん:
工程に無理のないところは本当に好き。だって、「煮汁」ですもんね。植物によって香りが違ったりもするし。作る工程の心地よさって、その工程を知らずに受け取ったとしても、もの自体から伝わると思うんです。

──草木染めをした生地に苺禾さんが野菜の切り口でスタンプを押したシリーズも、作る工程がそこはかとなく伝わるアイテムですね。



苺禾さん:
野菜スタンプは、草木染めの部分が色落ちしても、ものとして長く使ってもらためのフォローとして始めたところもあるんです。スタンプの染料には主に(土由来の顔料の)ベンガラやアイの濃い染液などを使っていて、糊を合わせて落ちないようにしているんですね。草木染めの部分は少しずつ色が落ちたり変化したりしていくので、対比を楽しんでもらえたらとも思って。

それから、土に還る野菜のスタンプというのも大事なところなんです。長野はとにかく野菜が美味しくて、自分たちでも畑で野菜を作ってるし、規格外の野菜ができると、それもまた面白い。東京から大町に移住して野菜を作り始めたばかりの頃は、野菜ラブ!という感じで、それが野菜スタンプのアイディアに結びついたような気がします。

▶▶後編はこちら

■お話をうかがった人
田澤康彦 TAZAWA YASUHIKO
田澤苺禾 TAZAWA MAIKA

草木染め作家とデザイナーのユニット「solosolo」として、2011年に長野・大町市の山里で活動を始める。ともに東京都出身。互いの個性やスキルを活かし、草木染めによる衣類やファッション雑貨の制作、染色の請け負い、DMやショップカードの制作など幅広く活動中。

ホームページ https://www.solosolohome.com
Instagram https://www.instagram.com/solosolohome/
Facebook https://www.facebook.com/solosolohome/

現在、滋賀県・甲賀市のMIHO MUSEUMで開催されている夏季特別展『赤と青のひ・み・つ 聖なる色のミステリー』に、康彦さんが染色した草木染め作品が展示中(2018年8月26日まで)。http://www.miho.or.jp
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この記事のライター

河野 アミ
河野 アミ

河野アミ 編集者&ライター。 東京と安曇野を行ったり来たりしながら、ミュージシャンのインタビューから人々の暮らしにまつわるあれこれまで、幅広く聞いたり書いたり作ったりしています。企画編集した主な本は、サンプラザ中野くん「125歳まで楽しく生きる健幸大作戦」(ファミマドットコム)、関由香「ふてやすみ」(玄光社)、美奈子アルケトビ「Life in the Desert 砂漠に棲む」(玄光社)、高嶋綾也「Peaceful Cuisine ベジタリアン・レシピブック」(玄光社)など。

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