河野 アミ 河野 アミ 2018/06/28

草木をめぐる仕事〈第2回・後編〉 田澤康彦さん、田澤苺禾さん──草木染め作家&デザイナー「solosolo」



草や木、花や果実。植物といういのちと日々向き合い、親密な時間をともにする人々に話を聞くインタビュー連載『草木をめぐる仕事』。

長野・大町市から草木染めの魅力を伝える、草木染め作家&デザイナーユニット「solosolo」の田澤康彦さん、苺禾(まいか)さんへのインタビュー後編では、草木染めの仕事を本格始動させる大きなきっかけとなった、東京からの移住の経緯についてもうかがいます。

2011年の東日本大震災の直後に滞在した長野・安曇野で苺禾さんが受けたカルチャーショック、草木染めを通じて変化した康彦さんの植物への眼差し、植物が持つ力、康彦さんと苺禾さんそれぞれが描くこれからのこと。「自分たちが植物や草木染めに癒やされたからこそ、その良さを紹介していきたい」と語るsolosoloの草木染めの世界に、ぜひ触れてみてください。

(文&写真=河野アミ)

▶前編はこちら → 草木をめぐる仕事 〈第2回〉 田澤康彦さん、苺禾さん 前編


「暮らす」視点で決めた移住


──solosoloの草木染めは、染色という技術への関心もさることながら、元々は赤ちゃんの肌着に自然素材をという、ナチュラルな暮らしへの欲求から始まったものですよね。その欲求が、東京から長野への移住、草木染めを中心に据えた暮らしへと具体的な形をとるきっかけとなったのが、2011年3月11日の東日本大震災だったとか。

苺禾さん:
当時は娘が3歳、息子が4カ月だったので、彼(康彦さん)に、ひとまず東京を離れてほしいと言われたんです。母子避難ですね。私は産後だからぼーっとしていて、なぜ行かなきゃいけないんだろう?と、状況を多面的に考えられなかった。それで、とりあえず私と同じように赤ちゃんのいる友だちに連絡したところ、「長野の安曇野の友人宅にいる」と言うので、そこに行ってもいい?と、わりと軽いノリで行ったんです。

ところが安曇野に行ってみると、ごはんがすごく美味しい。スーパーで買う野菜も、お蕎麦を茹でる水も、なにもかもが美味しい。もう、びっくりしちゃって。

──安曇野では、パーマカルチャー(持続可能な暮らしのデザイン手法)を実践しているゲストハウスにも滞在されたそうで。

苺禾さん:
友だちの友人宅に長居するのも申し訳ないし、(ゲストハウスが)近くだったこともあって移ったんです。で、行ってみると、宮城や岩手から避難で来ている方も含めて、マクロビ志向の方たちばかりだったんですね。

私も無農薬の野菜を選ぶようにしたり、自宅出産をしたり、それこそ草木染めをしたりと、できるだけ自然に近い暮らしを実践してはいたんですけど、彼がお肉を食べたがったのもあって、マクロビに関心はあっても、現実的ではなかったんです。でも、実際にマクロビを実践してる人たちと共同生活をしてみたら、みんな食べることにも生きることにも真剣で、とても感じが良くて。

私が子育ての時期に入っていたから、物事を「暮らす」視点で見るようになっていたのも大きいと思うんですけど、もうカルチャーショックでした。



──それで半年後には東京から長野の大町市に移住。すごい行動力です。

苺禾さん:
安曇野には2週間くらいしか滞在しなかったんですけど、その間にほぼ心が決まってましたね。元々、彼は田舎暮らしをしたがっていたし、私も仕事と子育てのバランスに悩んでいたりもしたので。

それと、安曇野に行って、私のエコロジー的な考え方を肯定してもらえたのも大きかったと思います。東京ではなかなか理解してもらえなかったから。とくに子育ての部分で、私の話に耳を傾けてくれたり、生き方の目標にしたい人に出会えたことは大きくて、これは縁だと思っちゃったんですね。それで彼に「長野なら移住してもいいよ」って(笑)。

自分がやりたいことを、植物に手伝ってもらっている


──移住して以降、花や木々に囲まれた暮らしや草木染めの仕事を通じて、植物というものに対する意識に変化はありましたか?

康彦さん:
東京から移住してくると、植物がぐっと身近になるじゃないですか。種類も量もすごいし、触れる機会も多い。草木染めを仕事にしたことで、さらに近くなった。気づくことは増えましたね。小さな変化に気づくようになったというか。芽が出て、育って、花が咲いて、種ができて、枯れてという生長のドラマに敏感にはなったとは思います。同じ植物でも、生長の時期によって染めの色が違うので。「今の時期は、あの付近であの植物がよく採れる」とか、植物のことを考える時間も多くなりましたね。

──さっき色素と金属のイオン結合の話が出ましたが、草木染めというのは、とても化学的なものだとも思うんです。と同時に、生きもの相手だけに、化学的な探求をもってしても制御しきれないところがある。草木染めというのは、人間と植物の双方が「染め」という作業の舵を握っている感じがしますね。

康彦さん:
その植物にはその植物固有の色味がありますよね。それを人間がなんとかしようとしても無理だと思うんです。植物に(発色などの)すべてを任せているわけではないですけど、自分がやりたいことの手伝いをしてもらっているというか、そこは、お互いのすり寄りの部分があるとは思うんですよね。



康彦さん:
食材なんかもそうですけど、それぞれの植物にそれぞれの旬があって、そこを捉えるとうまく染まる。いい色が出る。旬のほかにも、はしりの色や名残の色というのもあって、はしりだとフレッシュな色が出て、名残になると、ちょっとくすんだ、哀愁漂う感じになる。

──旬などの時期を捉えて染色に活かすのは人間だけれど、植物自体のありようは植物に任せるしかない。

康彦さん:
極端なことをいえば、同じ植物でも、毎年まったく違うんですよ。農作物と同じで、気候だとかいろいろな条件によって、豊作だったり不作だったりもする。そこをどうこうするというのは、もう絶対に無理なわけで。


地域に根付いた染めと、着る人になじむ服


──今、草木染めでやってみたいことはありますか?

康彦さん:
アイ(藍)は、これまでなんとなくしか栽培してなかったんですけど、もう少しちゃんと育てようかなという気持ちになってます。今回の仕事(※滋賀・甲賀市のMIHO MUSEUMで2018年8月26日まで開催中の美術展への作品提供)をきっかけに可能性が広がりそうなので。

それから、この地域で採れたものだけで染めを完成させてみたいですね。媒染に泥を使ったり。田んぼの泥の中にも、鉄や様々な微量金属が入ってると思うんです。媒染剤にも地元のものを使って、商品化していけたらいいなあと。

──土質って、数メートル離れただけでも違いますよね?

康彦さん:
そうですね。すぐ近くに金熊川という川が流れてるんですけど、東側と西側で全然違います。

──ということは、染め上がりの可能性が広がるどころか、ほぼ無限のような・・・。苺禾さんは、solosoloのこれからについて、どんなヴィジョンを描いてますか?

苺禾さん:
solosoloのデザインは、服の分野、野菜スタンプを含めたテキスタイルの分野、紙の分野の3つがあるんですけど、紙とテキスタイルについては、田澤苺禾の色が思いきり出ていいと思ってるんですね。

ただ、服についてはもう少し引いたところから見るようにしていて、この地域ならではの農的な部分も大事にしたいなあと。服自体に主張があるとか、身体のシルエットをきれいに見せるというんじゃなく、着る人の個性や動き、暮らしになじんで、着る人によってスタイルが変わるもの。具体的には、男性の服もやっていきたいと思ってます。



苺禾さん:
solosoloは二人のソロ活動で始まったものですけど、(solosoloの衣服の)縫い手の方も本腰を入れてくださるようになってきたし、仕上げなどを手伝ってくださっている方も、積極的にsolosoloのことを考えてくれてるんですね。solosolosolo・・・って、ソロがどんどん増えてる感じなんです(笑)。


みんな、植物を求めている


──solosoloブランドの魅力は、どんなところだと思いますか? 実はこのインタビュー中にも、ネットショップに注文が入ったんですよね。遠方からも買い求める人がいる──購入の動機はそれぞれだと思いますが、求められる理由を、作り手のおふたりはどう見ていますか?

苺禾さん:
みんな、草木や植物を求めているのがわかったんです。それは植物を育てるとか、植物柄のものを持つのでもいい。植物がそばにあることで安心できるというのが、まず最初にあると思うんです。

──植物という存在自体が、安心感をもたらすシンボルというか。

康彦さん:
草木染めのものを身につけると、植物を感じている心持ちになれると思うんですよ。それが、日々仕事をがんばっていたり、疲れている方にとっての癒やしや励みになっている気はしますね。

苺禾さん:
草木染めについて言えば、触れることに意味があるとも思います。草木染めの服をまとうだけで、なにかを感じ取る方もいらっしゃるし。それはもしかすると、エネルギーという言葉になるのかもしれない・・・うまく言えないんですけど。



──植物って薬効があるものも少なくないですし、植物のイメージがもたらす心理的なことだけじゃなく、草木染めには触れたくなるなにかがあるのかもしれないですね。

康彦さん:
僕らも都会で暮らしてたから、気持ちはわかるよね。

苺禾さん:
うん。実際、自分たちが植物や草木染めに癒やされたわけだしね。私たち、その安心感や心地よさを紹介することが自分たちのさだめなんだと、勝手に思ってるのかもしれません(笑)。



■お話をうかがった人
田澤康彦 TAZAWA YASUHIKO
田澤苺禾 TAZAWA MAIKA

草木染め作家とデザイナーのユニット「solosolo」として、2011年に長野・大町市の山里で活動を始める。ともに東京都出身。互いの個性やスキルを活かし、草木染めによる衣類やファッション雑貨の制作、染色の請け負い、DMやショップカードの制作など幅広く活動中。

ホームページ https://www.solosolohome.com
Instagram https://www.instagram.com/solosolohome/
Facebook https://www.facebook.com/solosolohome/

現在、滋賀県・甲賀市のMIHO MUSEUMで開催されている夏季特別展『赤と青のひ・み・つ 聖なる色のミステリー』に、康彦さんが染色した草木染め作品が展示中(2018年8月26日まで)。http://www.miho.or.jp














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この記事のライター

河野 アミ
河野 アミ

河野アミ 編集者&ライター。 東京と安曇野を行ったり来たりしながら、ミュージシャンのインタビューから人々の暮らしにまつわるあれこれまで、幅広く聞いたり書いたり作ったりしています。企画編集した主な本は、サンプラザ中野くん「125歳まで楽しく生きる健幸大作戦」(ファミマドットコム)、関由香「ふてやすみ」(玄光社)、美奈子アルケトビ「Life in the Desert 砂漠に棲む」(玄光社)、高嶋綾也「Peaceful Cuisine ベジタリアン・レシピブック」(玄光社)など。

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