河野 アミ 河野 アミ 1週間前

草木をめぐる仕事〈第5回・後編〉佐々木俊成さん──自然栽培農家「SASAKI SEEDS」


草や木、花や果実。植物といういのちと日々向き合い、親密な時間を共にする人々に話を聞くインタビュー連載『草木をめぐる仕事』。第5回は、長野ぶどう発祥の地としても知られるぶどうの郷、信州・松本の里山辺で、パートナーの貴美子さんと共に自然栽培農家「SASAKI SEEDS」を営む、佐々木俊成さんにお話をうかがっています。

ぶどう作りを生業としていた母親から「農業は大変だ」と聞かされて育った佐々木さんは、以前は農業そのものを敬遠していたそうです。ところが齢を重ね、生きがいについて考えたり、「自分がこの世界にできることはなんだろう」と思索を深めたりするなかで、考えが大きく転換。農業という仕事の素晴らしさや尊さに改めて気づいたといいます。

農業は、人間の都合よりも野菜の都合が優先です。特に、佐々木さんが選んだ自然栽培という手法は、天候や土壌の塩梅といった自然環境に委ねる部分が大きく、その苦労や大変さは推して知るべし。・・・ですが、佐々木さんは「どんな仕事にも大変なことはありますから」とサラリ。そして、「もっとおいしい野菜を作り、喜んでもらうにはどうしたらいいか。それを考えるのは、とても楽しいですよ」と、目を輝かせます。

(取材日:2018年8月25日 文&写真=河野アミ)

▶前編はこちら → 草木をめぐる仕事〈第5回・前編〉 佐々木俊成さん


 

釈迦の思想が、農業の素晴らしさに気づかせてくれた


──佐々木さんは、以前は会社勤めをなさっていたんですよね。

都会に憧れて東京に出たこともありましたし、つい最近までは、住宅地図メーカーで住宅地図の製造をしてました。並行して野菜を作り始めて、これなら農業一本でいけると就農したのが、作り始めて4年目の一昨年。それまでは会社勤めと兼業でした。

父はサラリーマンでしたが、母がぶどうを作っていたので、子どもの頃からいろいろと手伝わされてもいましたし、田んぼも家庭菜園もあったので、野菜は自分たちで作ったものを食べていたんですね。でも、母や近所の農家の人からは、こんなに大変な農業なんてやるもんじゃない、稼ぎに出たほうがお給料になると口うるさく言われて育ったんです。

──山辺は長野ぶどうの発祥の地といわれる、ぶどうの産地ですね。お母さまは、そんなにご苦労を。

嫁に来てから40年間、ずっとぶどうを作ってました。だから農業の大変さをわかっていたでしょうし、苦労させたくないという親心や、簡単じゃないよという意味も含めて、「農家にはなるな」と言っていたんだと思います。そして僕も、農業への憧れはまったくありませんでした。農作業自体もイヤでした(苦笑)。

──どんな心境の変化で、農業に目が向くようになったんですか?

会社員の仕事は本当にやりたい仕事なのか・・・と思っていたのがきっかけです。そして、結婚して、山辺の実家で暮らすと決めてから、自然のことや自分の人生について、改めて考え始めたのが大きいですね。歳をとってくると、そういうことを考えるようになるじゃないですか。

──ええ。

そんな時に、ある本で、釈迦が悟った「縁起」というものに出会ったんです。それ自体として完璧なものはなく、すべては関係性によって成り立っているんですよ、という。たとえば、どんな物質も、分子と分子が関係を持つことで初めて物質として成立するし、その分子も、素粒子というものが関わり合って成り立っている。ああ、そういうことだったんだ!と、ハッとして。




それを自分のことに置き換えた時に、僕がこの世界にできること、役割はなんだろうと考えたんですね。そして最終的に、農業というものに行き着いたんです。すべての生物がなにかを食べて生きていて、人間も必ず食べなくちゃならない。食べるものを作るというのは、やっぱりとても重要な、尊い仕事なんだと、考えが転換したんです。

──その転換は、食べものを作ることの価値を、佐々木さんが子どもの頃から体感的に知っていたことも大きいのではないですか?

そうですね、知っていたと思います。それが年齢を重ねることでより実感できたり、子どもの頃には考えなかった、環境や自然、政治のことなども考えるようになった時に、農業の素晴らしさや重要性がわかったということです。

ただ、農業というのは、人間の食べもののために自然を壊す、いわば人間のエゴによる環境破壊だとも思ってはいて。そんななかで、固定種、在来種というものを知り、環境をかぎりなく壊さずにやれる、自然栽培というおもしろい農法を知ったんですね。

固定種や在来種は揃いや生産性が良くないので家庭菜園向き、農家向きではないと言われますが、こんなにおいしいし、まだまだ知らない人も多いこの農法を、自分のスタイルとして仕事にできたら・・・と。そういう流れで、現在に至ってます。

──農業を始める前には、やはりいろいろと勉強が必要なのでしょうね。

ほかの農家の畑を見に行ったりはしました。ただ、結局は実践あるのみ、自分でやってみるしかないと思ったので、自然栽培関連の本を読んで、独学で作り始めました。

──とにかくやってみたかった?

そうですね。僕、音楽も好きなんですけど、ギターをやりたかったら、下手でもなんでも、まずはギターを弾き鳴らすじゃないですか(笑)。バンドをやりたかったら、まずはバンドを組むわけで。

──なんならその場で、バンド名も決めちゃって。

そうです(笑)。


 

子どもたちに「かっこいい」と思ってもらえる農家でありたい


──佐々木さんのバンド名は、SASAKI SEEDS。"FARM"ではなく。

個性を出したかったので。「SEEDS=タネ」だと、どんな農業にもあてはまるじゃないですか。どの野菜も必ずタネ蒔きから始まりますから。あとは、並びやロゴを考えた時に"S"の並びがかっこよかったので、これで行こう!と。

その時点では、なにを作るかも、どんなやり方をするかも考えていなかったので、完全に名前先行です(笑)。タネ屋さんと間違えられることもあるんですけど、基本的には自家採種してますので、間違いというわけでもないですし。

──ロゴもお洒落です。

パッケージングをした時に、かっこいいロゴがほしいなあと。



──モチーフはタネですか?

タネです。妻の友人のデザイナーさんに思いを伝えたら、こういうデザインにしてくださったんです。タネの多様性というか、僕が言った「タネにも個性がある」という言葉が心に留まったらしくて。このロゴを見て、タネだと思ってくださる方もいますし、松本なので、石垣に見えるという方もいるんですよ。さらに、土の中の団粒構造(註:排水性や吸水性の良い、バランスのとれた土壌構造)を表しているようにも見える。石垣と団粒構造は後付けですけど、いいなあと。

──私が佐々木さんにお会いしたいと思ったのも、実はロゴを見たのがきっかけの一つです。有機栽培や自然栽培は、どこかほっこりとしたイメージがあるなかで、SASAKI SEEDSのスタイリッシュなロゴは新鮮でした。

今の時代、いろいろな情報が飛び交うなかで「おっ!」と思ってもらうには、パッケージや売り方も含めた、その人なりのスタイルも重要になってくると思うんです。母がぶどうを作っていた時は、出荷先であるJAが求める規格に沿ったものを作って納品するだけでよかったんですが、SASAKI SEEDSは、旬の野菜で調理をしたい、自然栽培で育てたものを食べたいという方との直接取引がほとんどなので、食べてくれる人の顔が見えるんですね。

となると、作るだけでなく、経営者としても考えていかなきゃいけない。「作品」として自信の持てるものを作り、「商品」として目にとめてもらうにはどうしたらいいかを考えるのは、農業も同じなんだと思います。

──佐々木さんの理念を若い世代に伝える上でも、そういった工夫は重要ですね。若い時はやっぱり、理屈よりも、「かっこいい」「楽しそう」「おもしろそう」が入口になりやすいですから。
 
子どもたちに「かっこいいな」と思ってもらえる農家でありたいとは思います。僕がやっているような農法の農家になりたいと思ってもらえたら。ユーチューバーと同じくらいに、とまでは言いませんが(笑)、将来なりたい職業の一つとして農家が上がってくるといいな、とは思います。

──いいですねえ。

僕が農業をやると決めた時に、ふと、友人に木工作家などの「〇〇家」が多いことに気づいたんですね。そして、彼らはみんなかっこいいのに、「農家」にかっこいいイメージがないのはなぜだろう、「農業は大変だ」という認識が広まり過ぎてしまったからじゃないか・・・と思ったんです。それが農家を衰退させた原因の一つとも言えるんじゃないかと。

だから、作る野菜がおいしいのは大前提ですが、見て美しいと思える作品としてのクオリティを高めたり、僕が楽しく働く姿も見てもらったりして、「大変だけど、素晴らしい仕事だ」と思ってもらえるようにしたいです。そのためにも、どうやったらもっと良くなるか、もっと喜んでもらえるかを考えないと。考えないと、楽しくないですから。


 

タネも人間と同じ。記憶の積み重ねがタネの個性となっていく


──考えないと、楽しくない。

そう思います。たとえば、SASAKI SEEDSの野菜の値段は、僕が自分で決めてるんですね。スーパーで売られているものより高いのは、そこに付加価値があるからですが、買ってもらうためには、その付加価値を説明できる知識も必要ですし、ほかのジャンルでがんばっている方々のやり方や姿勢も参考にさせてもらってます。

そしてもちろん、つねに新しい商品を創造する気持ちで、野菜を作ってます。天候などの生育環境は毎年違いますし、土の中にどんな微生物がいて、どんな働きをしているかも、まだわからないことだらけなんですよ。だから、自分の経験を頼りに、もっといい組み合わせがあるんじゃないかとつねに考え、実験を重ねていくことが、結果に結びつくんです。

──文字どおり、日々チャレンジですね。

そうですね。ただ、自然栽培をやる人はみんな、「自分たちはサポーターだ」と言ってます。現在主流の農法は、人間が野菜をコントロールしますが、自然栽培の主役は、あくまで野菜。サッカーでいえば、野菜がプレーヤー。僕たちはプレーヤーがのびのびプレーできる環境を用意する監督であり、応援するサポーターなんです。・・・というのは、本の受け売りですが(笑)。今年のように日照りが続いた時には、遮光したり水をあげたりして、できるだけベストな環境にしてあげる。そういったサポートが、僕たちの役目です。

同時に、そうやって育った野菜のタネには、「今年はこんなことがあった」という記憶が残るので、そのタネで育つ来年の子どもたちには、同じようなことが起きた時に適応できる能力が備わっています。人類の肌の色が、日差しなどの環境的な要因に適応することで異なっていったと言われるように、タネも記憶を子孫につなげていくことでより強くなり、その記憶の積み重ねが、そのタネの個性になっていきます。そういう生命の継続性、いのちがつながる素晴らしさを感じられるのも、僕が自然栽培に惹かれる一つです。

本当はこのパッケージに、「6年目、自家採種」って書きたいくらいなんですよ(笑)。僕だったらそれを見て、「生命力があるんだなあ!」って感心しますから。



 

まずは味わって、そして選んでもらえたら


──佐々木さんのもとで記憶を受け継いでいくタネは、いつか「SASAKIトマト」や「SASAKIナス」になるわけですね?

自分の品種として登録して販売することになれば、そうなりますね。そのへんにはまだ詳しくないですけど、いつかそうしたいと思ってます。そういうオリジナリティを出せる可能性があるのも、農業を始める時のキーワードだったので。もちろん、交配して新しい固定種を作ることにもチャレンジしていきたいです。

──楽しみです。作るチャンスが年に1回だったりと、挑戦や努力が実を結ぶには時間がかかるのでしょうけど。

そういう意味では、ギャンブルに近いところもあります。だから、この農法をやる人がもっと増えて、ぶどうが山辺の里を潤したように、共同体としてチャレンジしていけたらとも考えますね。仕事として続けていくためには経費もかかりますし、利益が出なければ趣味と同じですから。

ただ、そういったことを抜きにしても、自然栽培は広める価値のあるものですし、固定種や在来種についても、存在を知ってもらうことで、なにを食べるかの選択肢を増やしていきたいと思ってます。

──自分が食べているものに関する知識が、私たちは少なすぎるかもしれないですね。私も、F1種と固定種が違うことくらいは知っていましたが、F1種自体が問題なのではなく、近年利用されるようになった、花粉を作ることのできない機能不全の株を使った「雄性不稔(ゆうせいふねん)」という栽培手法が問題視されていることを、いろいろと調べていくなかで初めて知りました。

新しいやり方が安全かどうかは、すぐにはわからないですからね。ただ、僕としては慣行農法を否定するのではなく、わかっていないことがあるという事実と、自然栽培や固定種、在来種の存在を知ってもらいたい。知らなければ、選べないですから。

──そのためにも、まずは固定種や在来種の野菜を食べてみないとですね。もぎたてのトマトとスイートペッパーをいただきましたが、どちらも濃厚な旨みがあって、調理するのがもったいないくらいおいしかったです。

そうなんですよ。本当においしいんです。




■お話をうかがった人

佐々木俊成 SASAKI TOSHINARI

信州、松本の里山辺にて、固定種や在来種の野菜を栽培する「SASAKI SEEDS」を営む。SASAKI SEEDSの野菜は自家採種したタネから育てられ、栽培方法は、無農薬、無肥料の自然栽培。パートナーの貴美子さんが販売を担当し、二人三脚でおいしい野菜を育て、届けている。

ホームページ https://sasaki-seeds.com
Instagram https://www.instagram.com/sasaki_seeds/
      https://www.instagram.com/sasakiseeds_in_the_farm/
Facebook https://www.facebook.com/sasakiseeds/
 
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この記事のライター

河野 アミ
河野 アミ

河野アミ 編集者&ライター。 東京と安曇野を行ったり来たりしながら、ミュージシャンのインタビューから人々の暮らしにまつわるあれこれまで、幅広く聞いたり書いたり作ったりしています。企画編集した主な本は、サンプラザ中野くん「125歳まで楽しく生きる健幸大作戦」(ファミマドットコム)、関由香「ふてやすみ」(玄光社)、美奈子アルケトビ「Life in the Desert 砂漠に棲む」(玄光社)、高嶋綾也「Peaceful Cuisine ベジタリアン・レシピブック」(玄光社)など。

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