植物生活編集部 植物生活編集部 2018/12/17

"草木ノ処方箋" アワー・ボタニカル・トークvol.3


「植物生活」のデザイナーでもあるフクナガコウジさんが親交のあるクリエイターと、「植物」をテーマに対談する本連載。
第3回目は、第2回目に引き続き、神奈川県横浜市にある元日用品市場「八反橋フードセンター」の一角に生まれた日用品店『DAILY SUPPLY SSS(デイリーサプライ・エスエスエス)』からお送りします。

2018年10月某日に、とってもステキな盆栽イベントがここで開催されると聞き飛び込みました! 

そのイベントとは塩津植物研究所による「あなたのための一つだけの盆栽をつくる」イベント「草木ノ処方箋」。


もともと東京で10年、奈良に移って3年。
その間、月100人のペースで植物のことを教え続けてきた塩津植物研究所の塩津さんが「その人の暮らしに合った植物をお教えしたい」と始めたイベントで、一対一で向き合って詳しいヒアリングを経てオンリーワンの植物と出会わせてくれます。


「草木ノ処方箋」で処方された盆栽と、詳しい育て方や木の性質などが書かれた“処方箋”。


まずは、第2回目の連載でもご紹介した、ここ『DAILY SUPPLY SSS』でこのイベントを開くことになった経緯から。

フクナガさんとSSS中嶋哲矢さん(小田桐さんは接客中、敷浪さんはお仕事でご不在)とのトークです。


SSSの店の一角にて。右からフクナガさん、中嶋さん。

 

盆栽である理由。




フクナガコウジさん(以下、フクナガ):そもそもなんで盆栽なの?

SSS中嶋哲矢さん(以下、中嶋):塩津くんは前からの知り合いで。2013年か14年くらいからかな。知り合いってのもあるし、僕らのいつもやってるできごとが人と出会って始まっていることもあってやってみようかって。

フクナガ:でも多肉(植物)とかもあるじゃない? なんで盆栽なのかなって。

中嶋:盆栽って若い人でやっている人があまりいないから、いいなって。

フクナガ:そういえばウチにも昔から盆栽あったけど、建て替えのときに捨てたのかな? おじいちゃんが亡くなってから手入れの仕方が分かんなくなって……。

中嶋:そういうの聞くよね。盆栽はコントロールが必要だっていうし。

フクナガ:長い間かかるものだし、骨董品みたいなもんだよね。

中嶋:今回、塩津くんが持って来て店に並んでいる盆栽も10年くらい育てたもの。すごいよね。盆栽っていう昔は日常だったものを、もう一度やりたいなって思ったときに、でも昔のままじゃなくて、いまの時代にうまく落とし込んだものがいいんじゃないかって。塩津くんの盆栽が、僕にはそう見えて。


こちらが塩津さんが自ら育て、イベント当日に持ち込んでいた盆栽たち。どれも小さなサイズでかわいくて、個性的!

フクナガ:そうすると、このSSSみたいに日用品店をやるってのもそうだよね。時代に逆行しているようだけど完全にはなくならないもの。やっている人にとっては毎日の一部で。サザエさんの波平みたいな。

中嶋:そうだね、あれって象徴的。

フクナガ:サラリーマンの人が盆栽するって、いまはあんまりないよね。

中嶋:盆栽みたいな存在がいまは何かに代わってんだよ。スマホとか。

フクナガ:あぁ、盆栽のアプリとかあったりして……。

中嶋:あ、それいいね。塩津くんにやってもらいたいな(笑)。塩津くんが言ってたけど盆栽は日本の建築にも関わっていて、客間に置いてお客さんを迎えるものだって。(店に飾ってあったダリアの花を指差して)ときどき食卓に花、欲しいじゃん。それが盆栽になってもいいなって思うんだよね。

フクナガ:それいいね! ライブとか見てると、いまって譜面が紙じゃなくてタブレットになってるの。そういうの見たりするとちょっとショックでさ。ハサミとかでも布用のもの、植物用のものとか、何か専用のものってあるじゃん。そういうのが好きで。タブレットって何でもできちゃうっていうか……。


中嶋:じゃあレジ作ろう、木で(笑)。

フクナガ:オモシロい(笑)。でも3Dで投影できる盆栽とか、そうなっちゃうと駄目だよね。スマホのメモとか、紙の質感とかに寄せようとしてるけどそうじゃなくて。

中嶋:じゃあ本物でいいじゃんってことだよね。

フクナガ:ひねくれた見方かもしれないけどね。ちなみにこの店にも植物がいっぱいあるけど、L PACK.的に空間を作るときに植物を置きたいっていう理由はあるの?

中嶋:いいよね植物。とくに色がいい。緑のこんな色ってあんまりないよね、植物以外に。

フクナガ:塗った色じゃない、計算できないものだよね。

中嶋:形とかもいいし。あとはリズムが整うかな。毎日触ったり水をあげたりするじゃん植物って。掃除とか洗濯みたいに生活に入り込んで来るから、暮らしが整う。

フクナガ:コーヒーを一杯飲むみたいな。そういう時間、必要だよね。

中嶋:なくてもいいかもしれないけど、あるといいなって。その人にとってはなくてはならないものっていうか。いい日用品って、あることを忘れる。たとえば一万円のお皿を買うと、最初の何回かはそのお皿のための料理を作るけど、一年後にはきっと何にでも使うようになってるでしょ。日常的になってくるっていうか。

フクナガ:家族になってくるみたいな。

中嶋:これ、僕らがコーヒーの焙煎で使ってるもので、8年くらい前に100均で買ったしゃもじなの。やばくない?


使い込んだしゃもじを手にする中嶋さん。

フクナガ:やばいね。すごい味出てる。

中嶋:普段は気にせず使ってるけど、ときどき我に返ってコレやばい!って思う(笑)。こういう日用品がいいなぁって。

フクナガ:いいね~。しかしやっぱ木ってすごいね、こんなんなるんだ。丈夫なだけがいいワケじゃないんだよね。

中嶋:って、こんな話しでいいんだっけ(苦笑)。

フクナガ:盆栽の詳しいことは、塩津くんに聞こう(苦笑)。

 

「草木ノ処方箋」って。


その人の暮らしに合ったオンリーワンの植物に出会わせてくれる、塩津植物研究所の「草木ノ処方箋」。今回SSSで行われていたその様子を簡単にレポートです。


右側に座る白衣の男性が塩津植物研究所の塩津丈洋さん。向かい合って座っているのは今回のお客さまである上品な雰囲気のステキなご夫婦です。所要時間は約1時間。じっくりその人のライフスタイルや家のことなどをヒアリングして、適した植物を導き出していきます。


丁寧にヒアリングした結果、ご夫妻にご提案する植物をいくつか選んで、一つひとつ説明していきます。


植物が決まったら(ご夫妻は黄梅を選ばれていました!)、その植物に合った鉢を選びます。鉢はデザインはもちろん、木の性質やライフスタイルから予想される水やりの頻度なども考慮して決定。この淡い緑が美しい鉢は、愛知の陶芸家・大西佑一さんの作品です。


「草木ノ処方箋」で用意される鉢は、どれも作家さんによる手作りのもの。しかも塩津さんが「本気を作ってください!」と作家さんにお願いしてできあがったオリジナルです。


鉢が決まったら植え替え。


完成した盆栽をうれしそうに写真におさめるご夫妻。見ているこちらもなんだかうれしい!


最後に、植物の性質や育て方等を“処方箋”として詳しく記して、盆栽といっしょに渡してくれます。これにて終了です!

 

暮らしにゆとりをくれるもの。


ここからは、イベント休憩中だった塩津さんも加わってのトークです(中嶋さんは途中から接客のため離脱、フクナガさんと塩津さんの盆栽トークになっていきます)。


中嶋:盆栽ってさ、何をもって盆栽なの?

塩津丈洋さん(以下、塩津):一言で言えば、そこに景色があるかどうかですね。

中嶋:庭は違うの?

塩津:盆の上の栽ですから。言葉として庭ではなくなってしまう。

フクナガ:箱庭的なものはあるの?


塩津:ありますよ。そういうのは盆景って言います。

中嶋:(店に置いてある観葉植物を指差して)これは盆栽じゃないよね?


塩津:ですね。きっとここに景色を、という様に考えて作っていないと思うので。

フクナガ:景色ってどの辺の?

塩津:たとえば意図して曲げたとして。その曲がりが雪が積もってその重みで曲がるというのを思って作っているとか、そこに思想があって作っているかどうか。偶然のものもあってもいいと思うけど、そこにストーリーがあると、それが景色となっていく。鉢植えってなると植物を見るけど、盆栽はその背景を見る。野山に生えている1本の木を見ているか、木そのものを見ているか……。

フクナガ:じゃあ、そういうつもりで見ていたら盆栽?

塩津:そうそう、オリーブとかでもできますよ。

フクナガ:すごいじゃん、いいね! 和菓子とかもそうじゃん、意匠っていうか、名前もついてて。

塩津:なるほど、ちょっと近いですね。和菓子。いい盆栽というのは、説明しなくても背景が頭の中にバーンッてなるような。それを目指しています。



フクナガ:盆栽って鉢とかも構成要素だよね。

塩津:大事ですね。木が100万のもの、鉢が100万のものでも合わないこともありますし。木と鉢の組み合わせが間違っちゃうと価値が下がっちゃうこともありますし。

フクナガ:それって誰が決めるの?

塩津:買う人です。最初は作り手が決めますけどね。

フクナガ:アートですね!

塩津:植物を育てるという行為自体は、平安時代にはもうあったんです。盆栽という言葉は江戸時代くらいまでなかったけど、そんな昔から植物を愛でるということはあった。でもその当時のやり方をそのままいまに持って来るのではなくて、2018年の、いまのライフスタイルに盆栽を取り入れるというのをやりたいんです。だからいまの暮らしに取り入れやすい鉢だったり、サイズ感というのを考えています。

フクナガ:なるほど。盆栽って王道とかあるの?

塩津:あるっちゃある。知識としてはあるけれど、でも大きい盆栽を持って来て300万ですってやると非日常になっちゃうから。だからそうじゃなくて、日常に取り入れられるものをやりたいんです。

フクナガ:そう聞いてると、盆栽っていいなぁ。

塩津:器も現代の作家さんに「本気を作ってください!」ってお願いして作ってもらった、ウチのオリジナルです。

フクナガ:すばらしい!



塩津:いまの時代背景として、より簡単で、育てやすくて便利なものが求められる。でも盆栽って剪定もこまめにしないとだし、水やりもシビアで手がかかるもの。でも、本当は簡単で便利でっていうものに、いまの人って飽きちゃってるんじゃないかなと。盆栽みたいに手のかかる子の方がかわいいし、とくに都市部の人にとっては必要な存在になると思う。そこに手をかける行為が、新しい時間と価値観への気づきになるというか。

癒やしが欲しくてワークショップとかに参加して、わ~楽しかった~って思って家に帰ってドアを閉めたら、ふと現実に戻って、ただでさえ時間がないのに大変なものを持って来ちゃったとか重荷になっちゃって。でもいつもパンくわえて出勤するような人が、(このイベントで)塩津さんが何かがんばって言ってたな~って思って、しょうがないから次の日の朝いつもより5分早起きして、日当りのいいところに盆栽を移して水をあげて。実はそれだけの行動って1~2分くらいで終わっちゃうんです。そしたら残りの3分余裕ができて、朝一杯のコーヒーを飲む余裕ができたんですよ。盆栽のために朝5分早く起きて手をかけることで、逆に時間にゆとりができたっていう。暮らしが豊かになりますよね。

フクナガ:時間ってないと思うけど、実はあるんだよね。

塩津:そう! それを盆栽が気づかせてくれたっていうことです!



フクナガ:あの、全然関係ないけど、最近フランス人に会ったんだけど。フランス人っていただきますとか、ごちそうさまって言わないんだよ。

塩津:え、何にも言わずに始まるの?

フクナガ:それが、(料理を)出す人が言うらしいんだよ。それがボナペティって言葉で。ハブアグッドタイムっていう意味らしいんだけど。

塩津:へぇ~。

フクナガ:そのボナペティって言葉がすごいいいなって思って。そのフランス人の人に聞いたら、正確に言うとボナペティって「ボン・アペティ」って言うんだって。

塩津:お、盆栽のボンじゃないっすか!

フクナガ:そうそう、そのボンってのをめちゃめちゃ言ってたの。よい旅を、とかもボンボヤージュって言うし。

塩津:どういう意味なの? ボンって。

フクナガ:ボンはグッド。良いって意味らしいよ。

塩津:ボン、いいね。

フクナガ:盆栽だから、何かつながるよね。

塩津:ボンに何かが潜んでる、もしかして盆栽のボンはルーツがあるかもしれない!? とか。

フクナガ:盆栽も、(フランス語の)ボンじゃないけど、結局手間がかかることによって、いい時間ができることを提案している。盆栽。いいよね。

塩津:じゃ、最後ボナペティで締めましょう(笑)!



ということで、大盛り上がりの盆栽トークは海を越え、ボナペティで幕を閉じたのでした!

写真/佐々木智幸


うかがった店
「DAILY SUPPLY SSS(デイリーサプライ・エスエスエス)」

京急「黄金町」の高架下から始まり、リノベーション旅館を経て2017年4月、シキナミカズヤ建築研究所の敷浪一哉さんとアーティストユニットLPACK.(エルパック)の小田桐奨さん、中嶋哲矢さんの共同アトリエとしてスタートし、「量り売り」「試して買える」スタイルで「日常の風景に栄養を与える新しい空間となった。「美しくて芯のある日用品」を基準に、考え、探し、試し、ない場合はつくり、販売する。コーヒーや米などの量り売り、アート作品、アーティストセレクトの海外雑貨などを扱う、ゆっくりといいものに出会える空間。

住所 神奈川県横浜市神奈川区羽沢町1802-1
営業時間 12:00~17:00(木・金・土のみの営業)
電話番号 045-516-4829
https://www.sssuburb.com/sss


塩津植物研究所
2010年設立。種木屋。種木の育成や培養に力を入れ、育成相談や治療を積極的におこなう。日本の山野草木を 知り 学び 育てる 盆栽教室を日本各地で開催。 草木を生かした空間や造園など、人と植物のよりよい暮らしを研究している。

住所 奈良県橿原市十市町 993 - 1
http://syokubutsukenkyujo.com/



フクナガコウジ Kohji Fukunaga
日本のアートディレクター、デザイナー。1985年神奈川県藤沢市出身。2010年武蔵野美術大学卒業後、広告制作や個人事務所勤務を経てフリーランス。現在は宣伝美術をはじめとするデザイン・企画に従事する他、“LOVE ME AND MISO SOUP.”でミソを軸に日本の文化を広める活動を行い、“SOBA”や“PARA BOOK PRESS”においてリトルプレスのプロジェクトを主宰するなど、分野を問わず作品制作を行う。花束は一種類の花だけで良い。近年はフレンチゴムを育てている。左利き。


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