【アートメモランダム】冨井大裕「線を借りる」[void+/東京]
線のためのポートレート(tac:tac)#1 素材:アクリル板 サイズ:114×100×57.5 cm 制作年:2018 展示風景 撮影/森政俊
冨井大裕「線を借りる」[void+/東京]
こんにちは。植物生活編集部アート担当です。展覧会紹介記事を書くとき、だいたい展覧会を自分で見つけることが多いのですが、今回はこの真っ白な空間にピンと来てしまいました。
東京・南青山にある「void+(ヴォイドプラス)」です。
「狭さ」「形」「白さ」と、もちろん過去の展示のすばらしさ。
実験的アートスペースと呼ぶのが一番しっくりくる、見る人も、展示する作家もワクワクするような空間です。
今回の展示作品を制作したのは美術家の冨井大裕(とみい・もとひろ)さん。
彼の作品は「東京都現代美術館」にて作品を収蔵されており、読者の方の中にも作品を知っている人も数多くいるのではないでしょうか。
彫刻とファッション
皆さんは彫刻に対してどんなイメージを持たれていますでしょうか?
木彫、石彫、仏像、など。
しかし、最近はそういった固定観念を取り払って、表現している作家が存在しています。
冨井大裕さんは、彫刻をベースにしていますが、型にはまらない表現方法を行っている作家です。
既製品などを使い、それに与えられた役割と意味を開放して再構築する、といった感じ。
冨井さんの活動を拝見していると、彫刻という軸があり、その周辺をぐるぐると移動するというより、
ギリギリの「彫刻の結界」のような範囲の中で自由に行き来して表現している、という印象です。
今回の作品は
「線を借りる」という展示タイトル通り、
ファッションブランド「tac:tac」のデザイナー、島瀬敬章氏のパターンの線を元に作られた彫刻作品です。
東京・青山void+
void+はデザインスタジオ 「Azone Associates」が運営するアートスペースです。
オープンしてから10年以上もたっているというのに初めての来訪!(展示会期は終了しています)
青山の高級ブティックが立ち並ぶ区域にありますが、裏通りにあるので、とても落ち着いた雰囲気です。
看板。
入口から左側が小部屋で、白い空間の展示スペースになっています。
右側のミーティングスペースの奥に展示スペースがあります。
人がいると入るのを躊躇しますが、思い切ってガッと入ることをお勧めします。
線のためのポートレート(tac:tac)#2 素材:アクリル板 サイズ: 69.5×50×42 cm 制作年:2018
展示風景 撮影/森政俊
青く染められたアクリル板の作品。
展示風景 撮影/森政俊
展示風景 撮影/森政俊
展示風景 撮影/森政俊
同じ型紙から作られた彫刻と服。
服を着て鏡の前に立つと後ろに作品が見えます。
線のためのポートレート(tac:tac)#1 素材:アクリル板 サイズ:114×100×57.5 cm 制作年:2018 展示風景 撮影/森政俊
真っ白な小さな空間。
線のためのポートレート(tac:tac)#1 部分 撮影/森政俊
線のためのポートレート(tac:tac)#1 部分 撮影/森政俊
線のためのポートレート(レリーフ状の)#1 素材:石膏 10×10×3cm 制作年:2018 展示風景 撮影/森政俊
不思議な石膏の作品。
これがおでんの型(はんぺん)になる!!
今回は会期中に「彫刻おでん屋台「LA」」を開催されました。
私は残念ながら行けませんでしたが、
おでん屋台の様子はギャラリーのHPにて紹介されています。
彫刻おでん屋台「LA」展示風景 撮影:森政俊
展示風景 撮影:森政俊
ギャラリー入口部分 撮影:植物生活編集部
おでんの型の展示風景 撮影:森政俊
冨井大裕さんにインタビュー
Q 冨井さんのいままでの作品を拝見していて気になるのは素材と色、空間と行動(活動)なのですが。
冨井:
素材と色は空間の要素を決定する重要な要素です。
もうひとつ付け加えるとすれば、形ということになるでしょうか。
素材と色と形の組み合わせによって空間が生まれると考えます。
空間とは雰囲気であり、気分であり、その空間にいる人のその後を何気なく変えてしまう可能性を持った装置です。
作品とはジャンルに関わらずそういった性質を有したものであり、そうあるべきだと考えています。
私は、作品以外にトークイベントや展示スペースの運営を慎ましやかに行っていますが、そういった活動の見え方自体が空間の創出だと考えています(故に、慎ましやかなことにも意識的です)。
その意味で、作品を制作/展示することがメインではありますが、活動も私の創作の両輪になっていると考えています。
作品から活動の方向性が促され、その活動から作品のアイデアが生まれるという様に「上手くいけばいいなぁ」と思いながらやっています。
Q 自身の過去の作品についてはどうでしょうか。
冨井:
素材となるモノに対して、その一般的なあり方(イメージ、扱われかた、来歴etc)を損なわずに別の立ち位置からの使用法を試みます。
具体的には加工を行わずに作品の素材として活用することなど。
その結果、作品と呼びたい存在が出来上がるのですが、一般的なあり方(Aのあり方)と作品の素材としてのあり方(Bのあり方)が残りながら、作品と呼びたいあり方(Cのあり方)になっているのが理想です。
ABCの全てが不可分で、私達の目の前に留まっている状態。かなり矛盾がありますが、その矛盾を受け止められる状態(フィールド)が作品ではないかなと。
今回の作品もこの考えに基づいて制作しています。
Q これからの作品の展開について教えて下さい。
冨井:
具体的には、今回の作品と(ファッションブランドtac:tacとの)関係性をブラッシュアップさせた展示を考えています。今年の年末か来年の頭にはできたらいいなと。
展望としては、これまで進めてきた考えをストレートに伝えられるように頑張りたいと思います。より抽象的な方向性で。
2019年1月にオルタナティブスペース「はしっこ」を設置。こちらも楽しみです。
http://www.kabegiwa.com/h01_hashikko.html
冨井さん、void+川口さん ありがとうございました!
最後に今回の展示について、冨井さんの言葉です。
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服の型紙をモチーフにした彫刻である。
ファッションブランド「tac:tac」のポンチョの型紙から任意に選択したパーツを20㎜厚のアクリル板に切り抜き、組み合わせている。
パーツの縮尺は「作品の事情」に応じて変えている。型紙のラインだけが同じという訳だ。展示されている一着のポンチョの型紙から2点の作品を制作した。内、一点は染料で青に染めている。
透過性のあるアクリル板の面は、その形よりも切り抜かれた時の軌跡=線を強調する。
線を保持しつつ、その線の内側に形とは違った内容を盛り込むことが出来るだろうかーーその挑戦としての染め。アクリル板も繊維である。
服との親和性もその挑戦の後押しとなった。ポンチョの濃紺に近づけたいとも考えたが、やはり「作品の事情」により深めの青に決まった。会場には鏡が置かれている。
ポンチョは展示壁面にレリーフの如く佇んでいる。試着ができるので、是非、羽織ってみて頂きたい。鏡には試着をしたあなたの姿越しにポンチョと同じ型からできた彫刻が映っている。
服が型紙という無数の形の組み合わせとその調整によって出来上がっていることを、鑑賞と試着と鏡に映った風景を通して体感して頂きたい。彫刻と服の間には型紙の存在しかない。
型紙をつくった一本の線が彫刻と服を繋いでいる。
もっとも強引に逢い引きの手はずを整えたのは本展の首謀者である私なのだが。
うかがったギャラリー
void+
107-0062 東京都港区南青山3-16-14 1F
http://www.voidplus.jp/
展示アーティスト
冨井大裕(とみい・もとひろ)
1973年新潟県生まれ。1999年武蔵野美術大学大学院造形研究科彫刻コース修了。2015年文化庁新進芸術家海外研修制度研修員としてニューヨーク滞在(-2016年)。既製品に最小限の手を加えることで、それらを固定された意味から解放し、色や形をそなえた造形要素として、「彫刻」のあらたな可能性を模索する。Twitterにて毎日発表される「今日の彫刻」などと併せ、既存の展示空間や制度を批評的に考察する活動でも注目を集める。近年の主な展覧会に「像を結ぶ」(Yumiko Chiba Associates viewing room shinjuku/東京、2017年)、「引込線2017」(旧所沢市立第2学校給食センター/埼玉)、「コンポジションーモノが持つルールー」(ATELIER MUJI/東京、2018年)、「水と土の芸術祭2018 MEGA BRIDGE」(ゆいぽーと新潟市芸術創造村・国際青少年センター/新潟)、「メルド彫刻の先の先」(Maki Fine Arts/東京、2018年)などがある。現在、武蔵野美術大学准教授、「壁ぎわ」世話人。
(void+ホームページより)
また次回もお楽しみに。
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この記事のライター
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