植物生活編集部 植物生活編集部 2019/04/08

片瀬那奈さんのフラワーノート File.02「コチョウランの生産地」



種から芽が出て、茎が伸び、葉をつけ花開く。

植物の生長がそうであるように、花が人の手に届くまでの間にも
たくさんの過程を経て、その時々の育てられかた、扱われかたをされながら
花は季節の美しさを表してくれています。



花が大好きな人は、その過程すべてを見てみたくなってしまいます。

日々「美しさ」を求める人、人々に「楽しさ」をお伝えするプロが、
その花の流れを見てみたら。
どう感じてくれるのでしょうか。



そこで、この連載では、
花、植物の生産から人に届くまでの現場を、女優の片瀬那奈さんとともに巡ります。

数々のドラマやTV番組などマルチに活躍をする片瀬那奈さん。
前回は、ラナンキュラスの産地を見に、千葉県・南房総に伺いました。
File.01 >> 「ラナンキュラスの生産地」青木園芸

今回は、春の声が聞こえてくる3月なかば、神奈川県の「コチョウラン」の生産地へ伺いました。



第1回目はラナンキュラスの生産地で、切り花向けに生産されている圃場でした。
今回は鉢物として出荷されているコチョウランの生産者である神奈川県座間市の座間洋らんセンターへ伺いました。

コチョウランが生産されている姿って、あまり想像がつかないのではないでしょうか。

片瀬さんを迎えたのは専務の加藤春幸さん、2代目です。
加藤さんは品種改良も手がけて、多くの新しい品種を生み出していて、数々の受賞歴のあるブリーダーでもあります。


もっとも進化している植物がラン

加藤さんが栽培している温室の規模は約1200坪。
コチョウランのステージにより、温室を分けて管理しています。

温室の入り口には、一般の人に向けた売店もあり、近所の人を中心に買いに来る人が多くいます。

「まずは、コチョウランの花が咲く前を見てもらいましょう」加藤さんがいちばん奥の温室に案内してくださいます。

びっしりと濃いグリーン。
コチョウランの小さな鉢が並ぶ様子は、まるで観葉植物の温室のよう。



片瀬:「ここからどれくらいで花が咲きますか?」

加藤:「約6ヶ月~7ヶ月くらいですね」

片瀬:「すでに、葉が元気な感じがします」

加藤:「農業では『苗半作』という言葉があるのですが、いい花を咲かせるには、この苗のときにいい状態であることが重要です」





温室内のLEDが点灯して、ピンクがかった光が温室内に入ります。


片瀬:「あ、ライトがムーディーに!それにしても幹も根も立派ですね」



片瀬さんが注目したのはコチョウランの根。ややシルバーがかった根が苗のポットに渦巻いています。

片瀬:「コチョウランはどういう状態から育てるのですか?タネから育てるのですか?」

加藤:「タネをまいて育てる実生(みしょう)苗もあるのですが、ここにあるコチョウランはメリクロンという技術でバイオテクノロジーを使って作った苗なのです。ここにいる苗はすべてDNAが同じクローンになります」

片瀬:「ここにいる子たち全部クローンなんですね。すごい!」




東京農業大学でバイオテクノロジーを学び、品種交配を自ら行う加藤さんは、「メリクロン」の苗の作り方の簡単な流れを説明します。


片瀬:「クローンの苗を使った方が安定するのですか?」

加藤:「そうです。実生で作ると似ていても少しばらつきが出て、花の大きさや色が違うことなども起こります。コチョウランの場合は、お祝いごとでたくさん並べることも多いので、白い花の品種でもすべて同じ白でないといけないので、同一のものが作れることがメリクロンのメリットですね。ちなみに苗はベトナムの標高1,500メートルにある、ダッカという地域で作っています。1年間を通じて日本の春の終わりから初夏にかけての気候で、夏は涼しく冬は暖かい熱帯高地です。」

片瀬:「たしかにみんな揃っていますね。葉だけ見てもきれいです」

加藤:「花がきれいなのはもちろんですが、花も葉も元気な方が贈られた方も元気になるかな、と思って作っています」




花が咲く前の状態の苗を管理している温室では、葉だけの苗ばかりでなく、温室にはつぼみをつけている苗もあります。



通常、コチョウランは咲いた状態で出荷されるものなので、この姿は生産地でないと見ることができません。
片瀬さんは苗をじっくり見ながら、加藤さんへの質問を続けます。


片瀬:「つぼみだけのコチョウランなんて見たことがないからすごく嬉しいです」

加藤:「これはピンクの花を咲かせます。つぼみから1輪咲くのに1週間、10輪咲くのに10週間かかります」

片瀬:「時間かかりますね。下の大きいつぼみから咲いてくるのですか?」

加藤:「そうです」

片瀬:「そういえば、コチョウランの鉢って3本とか花が咲いていますが、これの苗の状態から、どうしているのですか?」

加藤:「実は、寄せ植えしているんですよ。3とか5とかの数字は、縁起がいいといわれ、験担ぎされているのが理由ですね。また3本だと美しいバランスでもあります」

片瀬:「コチョウランは気品があって、上品。でも奥ゆかしさがありますよね、ゴージャスなのに、日本人が惹かれるのは、それが理由なのかな」

 

コチョウランの花言葉は「幸せが飛んでくる」


苗の温室を出て、次に案内されたのは、コチョウランを開花させて出荷まで管理する温室。
扉を開けると、コチョウランが整然と並んでいます。
一角ではスタッフが出荷作業も行っています。



どれも同じ色の美しい白いコチョウラン。
苗から白い鉢に寄せ植えされ、まっすぐ伸びていた花はすでにワイヤーで下向きに固定されています。
ワイヤーを花に沿わせる小さなクリップのオレンジ色がちらちら見えています。
入口付近には花が100輪近く開花している大きな鉢が置かれています。
通常では見かけることのない大きさと存在感。



片瀬:「うわー、すごい!」
加藤:「春は送別やお祝いのシーズンなので、特別注文用に用意しているものです。もうすでに3月には数鉢オーダーがあって出荷しています」

片瀬:「これはすごく豪華ですね。仕事柄、コチョウランをいただくことも多いのですが、特別に思ってくれていると感じますし、もらって嬉しい花ですよね」

加藤:「そういえば、片瀬さん、花言葉をご存知ですか?」

片瀬:「いえ、知らないです」

加藤:「幸せが飛んでくる、という花言葉です。だから、その言葉のイメージに合わせて相手に幸せになってもらいたい、ハッピーにしたい、というお祝いのシーンにぴったりなのです。私たちもそのイメージに合わせた花を届けられるように頑張っています」

片瀬:「素敵ですね」



開花している温室は最初の苗の温室に比べて、気温が低く、心地いい涼しさというのがぴったりの温度。

加藤:「コチョウランは春が旬の花なので寒さを感じてから、花を咲かせる性質があります。なのでうちの温室は、苗の温室が夏のように、花の温室は冬のような環境にして、一年中出荷ができる体制にしています。葉だけの苗の段階では、温度が上がると葉がよく育ち、下がると花が咲いてきます」

片瀬:「季節を感じて、花を咲かせるのですね」

片瀬:「花の後ろ姿って意識したことがなかったですけれど、こちらもかわいらしいですね」



ずらりと並んでいるコチョウランの中を歩いていると、後ろ姿も美しいということに気がついたこ片瀬さん。フォルムが透け、ほんのりピンクがかって正面から見た姿とはまた違う趣き。


片瀬:「白いコチョウランが多いのは、やっぱり人気だからですか?」

加藤:「そうですね。勝負事の世界だと特に好まれる色です。白星という意味も理由みたいです。また、新しいはじまりを白で表すことが多いので、お祝いごとには白い花が人気ですね」

片瀬:「確かにウェディングドレスも白ですね。ちなみに存在しない色ってありますか?」

加藤:「あります。やっぱり青ですね。コチョウランには青い花色の原種がとても少ないのですが、いつか育種して作ってみたいです」
 

コチョウランの仕立てに挑戦


温室を案内されながら最後にやってきたのは、出荷作業をしているスペース。
寄せ植えされた鉢を、この温室ではスタッフ3名が、それぞれ鏡に花を写しながら作業を行っています。
いわばコチョウランの「メイクルーム」のようなもの。
きれいに形を整えることもコチョウランの生産では大切なことです。



片瀬:「花の姿を見ながら作業できるように鏡があるのですね。でもすごく大変そうな作業ですね」

加藤:「そうですね、一人前になるには3年から5年ほどかかります。花を傷つけないように作業を行うので、慣れない人は泣き出してしまう人もいるほどプレッシャーがあるみたいです。でも今日いるスタッフはみんなベテランです」


鏡を見ながらどの角度からも美しく見えるように整えています。
なんと、片瀬さんにもこのコチョウランの出荷作業をトライすることに。





加藤さんが見本を見せながら作り方のポイントをレクチャー。
すでにワイヤーを固定しているクリップを外して新たにワイヤーを挿し込み仕立てます。
じっくり花を見ながら、考える片瀬さん。
加藤さんのアドバイスに合わせて、まずは花の観察。
ワイヤーを挿しこむ場所が決まりました。




加藤:「苗にワイヤーを挿します。花の向きはもちろん、葉の向きともいいバランスのところに挿していきます。それからワイヤーを花の美しい曲線に合わせて曲げていきます」



片瀬:「この角度がきれいですね」
加藤:「1本の場合は、飾りたい場所をイメージしながら仕立てるのもいいですよ」





決まった角度に合わせて、ワイヤーを曲げて、花のラインに沿わせ、クリップで固定。
最後に花の茎にワイヤーをブラウンカラーのテープで留めていき、クリップを外します。
余分なワイヤーをカットしてでき上がりです。


片瀬さんが仕立てたコチョウランは、日本に8株しか存在しないという希少な品種。
もともとハワイで突然変異により生まれた品種を交配で、リップといわれる中心部分が一般的なものは黄色やピンク、赤ですが、この品種は白。すべてが真っ白な品種です。



片瀬:「うわぁ、とてもきれい。そのままでも十分美しかったけど、こうして手を入れるとさらに美しさが映えますね」

加藤:「この作業は作る人の個性がでます。それにしてもワイヤーを曲げる作業はスタッフでも初心者だと3ヶ月くらいかかりますが、片瀬さんすぐにできましたね。驚きました」

 

自宅でできるコチョウランの管理方法


俳優の大先輩からいただいたコチョウランを大事に自宅で育てているという片瀬さん。
自宅での管理方法も気になるところ。

片瀬:「たとえば、このワイヤーはずっとそのままでいいのですか?」

加藤:「花が咲いている間はそのままで。花が咲き終わったら抜いてください」

片瀬:「わかりました。花が咲き終わるといつも根元まで茎をカットしているのですが、それで大丈夫ですか?」

加藤:「茎の根元から3節目くらいでカットすると、気温が25℃よりも低いと咲いてきますよ。秋なら3節目くらいでカットするとほとんど咲いてきます。ただ、今の春の時期だと夏を迎えるので咲かずにカットした茎は枯れますが、別の場所から冬には蕾があがってくると思います」

片瀬:「明るいところがいいのですか?」

加藤:「そんなに明るくなくても、木陰でも育つ植物なので、新聞の文字が読める程度の明るさがあれば、十分です。どんな環境でも育つように進化しているのです」

片瀬:「優秀ですね!あと、水やりは?」

加藤:「水やりは控えめにしてください。多肉植物のように葉に水を貯めているので、1〜2週間に1回程度で大丈夫です。水をあげすぎて、根を腐らせてしまう人が多いので気をつけてください」

片瀬:「霧吹きを毎日していますが、これも必要ないですか?」
加藤:「必要ないです。花のない時期は葉に埃がたまったり、水やりのあとがのこったりするので、それを拭いてあげてもいいですよ」

片瀬:「なんだか、もっと難しいと思っていたので、思ったよりもちゃんと育てられるような気がしてきました!これからも大切に育てます」



じっくり、ゆっくり観察したコチョウランの圃場。
仕事柄、身近にあることの多い「蘭」ということでしたが、産地見学はどう感じたのでしょうか。


片瀬:「加藤さんのご説明が上手で、たくさん教えていただけました。そして、育てている方の愛情が大事だと感じました。コチョウランという蘭の見方も変化しました。高級なイメージが強かったので、少し高飛車なイメージがありました(笑)。でも、それには理由があるのですね。気品溢れる理由は納得です。本当に気品を保つことというのは、すごいことです。一枚の葉も花もみんな元気で、これは志のある生産者にしかできないと思いました。加藤さんのきれいな花を咲かせたいという気持ちだけでなく、それを見て喜ぶ顔をみたい!という気持ちに感動しました。私の仕事も届いたときに皆様にどう喜んでもらえるか、ということを大切にしているので、通じるところがあります。やはり、その届いたときの思いの大切さということを改めて感じました」









次回のフラワーノートもお楽しみに。

スタイリスト/kozue onuma(eleven.) 
ヘア&メイク/窪田健吾(aiutare)
撮影/徳田 悟
生産地コーディネート・文/櫻井純子(Flow) 

衣装協力/
イエローニットトップス ¥28,000、ブラウンスカート¥35,000、ともに/ミュベール(ギャラリー・ミュベール)
ピアス ¥4,000、リング ¥5,500、ともに/アビステ

[ 問い合わせ先 ] 
ギャラリー・ミュベール 03-6427-2162 港区南青山5-12-24 シャトー東洋南青山B1F
アビステ 03-3401-7124 港区南青山3-18-17 エイジービル



うかがった生産者
加藤春幸 Haruyuki Kato
1979年生まれ 東京農業大学卒業後、カトレアを中心に手がけていた実家の座間洋らんセンターに入り、洋蘭の生産・販売・育種を行う。2005年からコチョウラン栽培をスタート。東京ドーム世界らん展日本大賞2015グランプリをはじめ、コチョウランで農林水産大臣賞を10度受賞する新進気鋭の二代目生産者。

座間洋らんセンター
神奈川県座間市栗原947
http://zamaorchids.sakura.ne.jp


訪問した人
片瀬那奈 Nana Katase
1981年11月7日生まれ。東京都出身。
instagram@nana_katase

出演情報:
『シューイチ』( NTV系・日曜7:30 - 9:55 )、『音ボケPOPS』( TOKYO MX・土曜21:30 - 22:00 )ほか、ドラマ『白衣の戦士!』( NTV系・水曜22:00 - 22:54 )にて村上真由役で出演中。



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