植物生活編集部 植物生活編集部 48ヶ月前

植物生活なあの人 vol.9 小野木彩香/フローリスト





この場所で、この人に花束を作ってもらったら

きっとステキだろうなぁって感じることがあります。

東京は三鷹の小さな平屋でご主人とともに「北中植物商店」を構えるフローリストの小野木彩香さんも、そんな予感を感じさせてくれる方でした。
(取材時。2021年4月現在は新しいアトリエへ移転しました。)

 


小野木さんのほんわりとした優しい空気感そのままをキュッと凝縮したような花束、それだけでなくキリリとした表情の花やシンプルな取り合わせなど、テイストはさまざまだけれどもどの花にもポジティブな、そっと癒やしてくれるような心地よさを感じるというか。

花屋さんだけでなく、外での生け込みやイベントへの参加など幅広く活動されていて、そのパワフルな行動力にも敬服です。

そして花に興味を持ったらご本人のことも気になって来るというもので……小野木さんにいろいろお話を伺ってきました!

 

はじまりは、1本のガーベラ

もともとは、不動産の営業という仕事をしていたという小野木さん。

短大卒業後、就職したときに就職し粛々と働く日々でしたがふと、なにか習い事をしたいと思うようになります。

いろいろな習い事からフラワーアレンジメント教室を選んだのは、全く知識がなく、やったことがない習い事だったから。
 

というのもありますが、その奥深くには一つの忘れられない体験がありました。

小野木さんが20歳ごろのこと。
 

「落ち込むことがあり、友達に電話で相談していたとき、いまから行くから!とその友だちがガーベラを持って来てくれて。それまで花をもらう機会って卒業式くらいで、しかも友だちは私がガーベラ好きなことを覚えていてくれて、駅前で買って来てくれたのがすごいうれしかった。その1本のガーベラがすごく心にしみたんです。まさに運命を変える1本だったかも」。

それが原体験になって、花に興味を持つきっかけになったという小野木さん。

そのあと「ガーベラ持って、プリクラ取りに行きました(笑)」というエピソードまで、なんだかほっこりです。

仕事をしながら月に一度のフラワーアレンジメント教室に通っていましたが、その教室はとても楽しかったそう。「毎月行って花を選んで、好きな花を先生が説明してくれて。その時間そのものが楽しかったんだと思います。2年くらい仕事しながら通っていました」。

そうして花の魅力に引き込まれて行った小野木さんは、思い切った行動に出ます。

 

 

仕事しながら、週一で花生け

なんと、平日は不動産の営業の仕事をしながら、生け込みのアシスタントを開始したのでした。

週に一度、夜中のホテルのロビーの花生けを手伝う。

平日の仕事が終わったらその足でアシスタントをしていたアトリエに向かい、眠り、生け込み現場に向かうというハードスケジュール。

小野木さんは「行動力だけです(笑)」と笑顔でサラリと語りましたが、それを半年も続けていた(!)というからその強い想いと行動力にただただ尊敬の念です。

そして、アシスタントをはじめて半年後。

勤めていた不動産会社を辞め、本格的にアシスタントとしてその現場に勤めるようになります。

パーティー、ホテル、ウェディング、夜の六本木や銀座のママのお花など華やかで大きなクライアントが多い職場で、メインアシスタントはほぼ小野木さんだけという環境。

勤めていたフローリストさんの方針が元気なお花はできるだけ使ってあげるということで、引き上げてきた花を水切りして再処理して……という作業もこなし当時はほぼ眠れなかったそうです。

そうしてそのアトリエで3年勤め上げ、そこからは花屋さんの派遣に登録し、いろいろな花屋さんで働きました。

「そこの先生しか知らなかったので、いろんな花屋さんを見たくて。ワイヤーのやり方一つとっても店によって違って勉強になりました。最後の方は自分が気持ちよく仕事ができて、その方も頼りにしてくださるところで働いていました」。
 


 

花を生ける仕事がしたかった

そうして独立。

まずは店舗を構えず、自宅をアトリエとして「コロランオデュール」という屋号で活動をはじめます。

「花を生ける仕事がしたかった」という小野木さん。

ですが「正直、独立してすぐ生け込みとれるかって言ったら……。なので花の仕事を続けていくとしたら、マルシェとかに出店して続けていくことが大事か

 

なと」思い、地道にマルシェやイベント出店などを積み上げていきました。

そうして徐々にオーダーやファンも増えてきたある日、大きな転機が訪れます。


 

旦那さんとの出会いと、お店

はじまりは、小野木さんのご近所に、その後旦那さんとなる北中祐介さんが引っ越しをしてきたこと。

北中さんは「モリノナカ」という屋号で庭の設計から施行・管理までを行う“庭造りのプロ”でした。

もうそれを聞いているだけでも、あぁ、すばらしい出会い!!!と勝手にときめいてしまいますが、時を経てお二人は結婚され、ともにいまの「北中植物商店」をオープンすることになります。

「旦那さんと出会って、(店舗の)大家さんの勧めもあって。店を持ってお客さんを迎えるのもいいなぁって。旦那さんにとってもお庭のモデルケースができるし」。

けれども、オープン当初は葛藤もあったそうです。

「実は店をやりたいっていったのは旦那さんの方で。私は店番しないといけないし、生け込みの仕事のときはどうしたらいいの?って葛藤もあって……。でもそれを望むならとはじめました。でもこの場所だからなかなかお客様が来ないし店に縛り付けられているような……」と当時を振り返ります。

ただ、徐々に二人で自然体でいられる形を探して続けていくうちに「(店を)フルで営業してたのを週末だけにしたり、平日を動けるようにしたらストレスもなくなって。最初スタートしたときの不安定な気持ちと向き合って、やっと自分たちのスタイルになってきた気がします」。

いまでは「この週末の店番がすごくいい時間。来月はどうしようとか、次の見通しを考えられる場所になりました」と、小野木さん自身が一息つける場所へと変化しました。

  


店には、しばしば庭を考えているというお客さんもやって来ます。

そんなときはすぐに旦那さんに連絡をとり調整をするのも小野木さんの役目だそうで、

「お庭の窓口になるのも私が多いですね。同じ屋号でやってるから結構いつもいっしょにいると思われるけど、でも別なことが多くて。イベントのときも役割が違うし、旦那さんはお客さまのお庭に行って仕事をしているからお店にいることもあんまりないですし」と

おのおので得意分野をまっとうするプロ集団な一面も伺えます。

そんなストイックな反面、小野木さんと北中さん、お二人にお会いすると

ナチュラルな空気というか、ホッとさせてくれる雰囲気にいつも和みます。


「北中植物商店」のお店に来るとレトロな平屋の建物や川を挟んで横に広がる大きな公園ののどかさ、小野木さんが選んだ花や器などのセレクトに心がフワッと緩みますが、なによりもお二人の空気というものが店に優しさを満たしてくれているというのも大きい気がするのはポエマーすぎるでしょうか。

けれども周りに繁華街がある訳でも、有名なスポットがある訳でもない駅から離れた住宅街の真ん中。

ここにわざわざ足を運ぶお客さんたちは、そうしたことも感じながらお店を愛しているのではないかなと勝手に思ったりしています。

「みなさんお店を目がけて来てくださって。お客さんがそんなに多くないので何かしら会話しようと思っているし、(店の造り上)距離が近いのでお客さんがいろいろ話してくれるんです。そしたら次来たときに覚えてられるから、前のお花どうでしたって声をかけられるし」と小野木さん。

そんな行きつけのお花屋さんが自分の暮らしにあるというのは、幸せなことだなぁと思います。

 
 

暮らしに合った場所に

1本のガーベラから、花への道を歩むことになった小野木さんですが、いまやすっかり植物のトリコとなり、お話を聞いていてもあふれる愛でいっぱい!

お店では切り花だけでなく、旦那さんのモデルケースとしての前庭に、鉢物もたくさん取り揃えています。

小さな盆栽のような木もあって、どれもこれも愛らしくて家に連れて帰りたくなってしまいます。

この子たちをお世話していると、日々魅力に気づくという小野木さん。

とくに「ちっちゃい実生(みしょう)の木とか、冬眠してなんにもないところを見ると“コイツ大丈夫かな……”と思うけど、春になってきてちょっと芽が膨らんできたときのあぁ、生きてた!っていう芽吹き、それが本っ当に好きで。なんか芽吹きが遅い子もいて、ちょっと端によけたりしていたら一週間後とかに芽が出て来たりして。植物も人間と同じで個性があるんだなって」と春ならではの“芽吹き”トークに熱がこもります!

枝の先に、ちょこんと出はじめる小さな芽。

そんなささやかだけれど、力強い植物の姿を語る小野木さんの姿に、アツい植物への愛情を感じました。

最近では、去年の10月ごろに近所でノバラの赤い実が成った一枝をいただいて、花瓶に飾っておいたら根が出て、葉っぱが出てきて……それもうれしかったことの一つだそう。

半年越しの芽吹き!!!

植物って本当にすごいです。

小野木さんは自宅ではいつも、台所の前に花を置いているそうです。

窓があって、シンクがあってすぐ水もあげられるしなにより常に見てあげられる場所だから。

「花を飾るのは、よく目につくところ、目の前に置くのがいいなって。その人の暮らしに合った目につくところに飾るのがオススメです」。

なるほど! 確かに植物って見てあげることがいろいろな意味で大切ですもんね。

勉強になります。

普段の生け込みやイベント出店、お店のほかに、花に関する書籍の出版や雑誌での連載も持つ小野木さんは新しい取り組みも意欲的です。
 


たとえばいま、力が入っていることの一つに、毎月の花の定期便「はないろあそび」があります。

そのときどきの旬の花が、花の紹介を書いたタブロイドとともに届きます。

そのタブロイドには美しいビジュアルとともにQRコードもついていて、読み込むと花束の作り方が見られるという仕組み。

お教室やワークショップに行けなくても自宅で花束作りができちゃうという、面白い内容になっています。
 

花ってそのまま飾るだけでももちろんステキなんですが、花を束ねる、花を手にするその感触は、花束ならではの至福のひとときだと思います。


きれいな花だけではなく、花と触れ合う時間そのものをお届けするような「はないろあそび」は、小野木さんが「その時間そのものが楽しかった」という、かつて通っていたフラワーアレンジメント教室にも通じるものがある気がしました。



仕事以外では、美術館に行くことが好きで「美術館は旦那さんがすごく好きなんでよく行きます。建築とかデザインとか、このまえアルヴァ・アアルト展に行きました。お茶系の展示も行きますね。茶道具とか。地方に行ったら、いまなにやってるかなってまず美術館をチェックします」というほど夫婦揃って美術館好き。

近ごろは服作りが趣味で、仕事が一段落したら一日で一気に作り上げるのがリフレッシュだそうです。

「やっぱり作ることが好きで。作るか、庭に花を植えるかが、自分で楽しいなぁと思える自由な時間です」。

今後は、「もっと北中植物商店という名前をいろんな人に知っていただけたら」と語る小野木さんと北中植物商店のこれからにますます期待したくなるひとときでした!
 


文/植物生活編集部 写真提供/月刊フローリスト


話をうかがった人

小野木彩香[北中植物商店]

北中植物商店 

東京都三鷹市大沢6−2−19
(移転後:三鷹市大沢6-10-2)

http://www.kitanakaplants.jp/


あたらしくなった「はないろあそび」をご覧ください

 

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