ドイツフロリストマイスターに学ぶ「花の造形」レッスン 01
フロリストマイスターが教える 花の造形理論
花のプロフェッショナル=フロリストの仕事は、商品や作品の「造形材料」である植物をいかに魅力的に見せ、植物が持つ生命力やその表情を感じてもらえるようにするかにあります。
造形する側であるフロリストは、自分が扱う造形材料について熟知しているべきです。
それでも私たちと同じ、いえ、それ以前から存在する植物を知ることは、短期間でできるものではありません。
毎日の生活の中で、また仕事の最中にふと目をやった自然の風景から……。
私たちが生きている時間のすべてを使い、少しずつ知識を増やしていくものです。
フロリストは植物をどのように見て、何を感じ取るべきなのか。
お客さまの要望や自分のテーマにあった造形をするために、どのような知識が必要なのか。
今月から始まるこの連載では、まだ歴史の浅い花の造形の理論を、ドイツフロリストマイスターとして紹介していきます。

自然観察
材料を知り造形のアイデアを得るためにフロリストの自然観察の目的は、植物材料を知ること、作品のアイデアを集めることです。
自然のある場所や庭で、一つの植物について観察したり、その植物が他の植物とどのように関わっているのか、環境などを感覚的に学習することが必要です。
春夏秋冬、季節ごとに異なる植物とそれをとりまく場の雰囲気を、自分の中にストックしていきましょう。
植物を手に取り、質感や花や葉、茎の様子を体感することも必要です。
挿す、束ねる、曲げる、切るなどのフロリストの作業には、植物それぞれに異なる、さまざまな扱い方があります。
テーマやお客さまの要望に沿ったデザインや材料の選択の際には、数ある植物の特性の中から、的確に判断しなければなりません。
春のおぼろげな桜や菜の花の色や、夏の力強い植物の群生、秋の憂いを帯びた木々のしなり、冬の寒さをしのぐ堅い蕾など、少し意識すれば目に入ってくる自然のワンシーンは、デザインへの数多くのアイデアを与えてくれることでしょう。
風景をそのまま再現することが、必ずしも正解ではありません。
そこから得たイメージ、色の組み合わせや質感、線や空間のリズムなどの一端を、自分の表したいイメージや意見とともに、デザインに取り入れることが目的です。
自然の姿をできるだけそのまま表現する
自然の中での植物の高さや生長の姿を、できるだけそのままに扱おうとする表現が「植生的な表現」です。制作しようとする商品や作品の輪郭は、自分が設定するのではなく、使用する植物によって決められます。
一方、花や葉の形、色の美しさ、生長の動きだけをフォーカスしたり、あらかじめ設定された形(ラウンドやトライアンギュラーなど)やテーマを構成するために、そこに植物を当てはめていく扱い方は非植生的な表現といえます。
自然観察を行い植物の構成を見てみると、主張の大きな植物がもっとも高い位置にそびえ、その下には中程度の主張の木々が枝を伸ばし、また背の高い花や葉が生い茂ります。
その下には、美しい草花がさまざまな色合いを見せながら咲き誇り、短い草や落ち葉、コケ、石、地面へと続きます。
植生的な表現の際には、自然の構造を見本とした植物の大、中、小の高さの違い、主張の違いも考慮に入れて制作することが必要です。
作例1 自然をそのまま見せる
冬の力強い生命力を表現植物が育ったまま、手入れされずに冬を迎えた庭(上の写真)を表現したアレンジメント。
主役のキクは特徴的な曲がった形を生かし、ススキやシソは高く配置してダイナミックさを見せている。
枯れた枝や蔓を飾りとしてあしらい、足元は枯葉で覆った。
大、中、小の主張を持つ植物の配置は、見本とした庭の構成ほぼそのまま。自然の模写に近い形の、植生的な表現を取り入れた作品。
Flower&Green
キク、シマススキ、シソ、オカメナンテン、ヤブラン、枯れた植物の葉・枝・蔓
制作のポイント
材料は庭で採取したものを使用。
主張の大きいススキを風になびいているように挿して高さを決め、同じく主張が大きくフォーカルポイントとなるキクは曲がった形を生かして配置。
作品のアウトラインはこれで完成。
構成はアシンメトリーとグルーピングが基本
植生的な表現の場合、基本的には、構成はアシンメトリーで制作することが望ましいとされます。それは自然風景が、植物の力強い生長や季節や自然現象が巻き起こす変化のために、いつも安定して均整のとれた、静かなイメージではないからです。
材料の配置はグルーピングで行います。
野原で見られる植物の群生も一定ではなく、疎密感のあるグループを形成しています。
多くの植物が秩序なくひしめき合う場所でも種類ごとにグループを構成し、調和を保っているからです。
花材の向きにも注意しましょう。
植物の1本1本が生長の場所を探し、光を求めて伸びていく様子を正しくとらえ、それぞれの生活空間を表現することが必要です。
作例2 整理された植生的なデザイン
お正月のアレンジ冬の自然風景を見本としながら、グルーピングをより明確にし、高さを強調するなどデザイン的に整理をした作品。
植生的な表現に必要な主張の異なる大、中、小の材料をすべて取り入れ、それぞれの植物の生長の様子がわかるように構成している。
そのため、これも植生的な表現となる。高さの決め手となるボケの枝は、もっとも自然らしく見える角度で挿す。
これに合わせて淡い紫のキクを合わせ、清楚な新春のイメージでまとめた。
Flower&Green
ボケ、キク、ツバキ、イタリアンカラマツ、ススキ、マツカサ、コケ
自分が感じた“自然”の印象を表現する
植生的な表現にも大きな幅があります。
かなり自然に近い、自然そのままのように見えるものもあれば、組み合わせる材料が、本来は同じ植生に属さないものであることもあります。
実際の生長の長さとは少し違って見えることもあるでしょう。
植物をデザイン、造形していくということは、そこに作者のイメージ、テーマ、表したいことが存在するべきです。
自然そのままをパーフェクトに再現することは、まったく必要ありません。
自分が見た、感じた自然からの印象を、自分の解釈で商品や作品にすることが、フロリストに求められることです。
作例3 植生的と自然的の違い
ナチュラルな花束「植生的」と「自然的(ナチュラル)」な表現の違いについて問われることは多い。
この花束は、グリーンを多めに集め、季節の花を合わせて自然的な雰囲気に作ってはあるが、植物の生長の様子を見せているのではない。
丸いコンパクトなラウンドに束ね、質感と色の調和を意識し、テーマである新春を考慮した色の花を混ぜるなど、装飾的に仕上げている。
このようにあらかじめ決められた形に当てはめたり、テーマ性が強くなると非植生的となる。
呼び方も「植生的な花束」ではなく「自然的(ナチュラル)な花束」となる。
Flower&Green
ラナンキュラス、ムラサキシキブ、イチョウ、メカルガヤ、アイビー、キキョウ(種)、イタリアンカラマツ、リグラリア、キク、エリカ、オタフクナンテン、オンシジウム、トキワマンサク、バラの実
今回のまとめ
植生的な表現とは?・植物材料の自然の中での高さや生長の姿を、できるだけそのまま扱うこと。
・デザインの輪郭は、使用する植物によって決まる。
・自然の構造を見本とした植物の大、中、小の高さの違い、主張の違いを考慮に入れて制作する。
・材料が自然的なものでも、決められた形の中に当てはめたり、色やコントラストを意図的に強調するなどテーマ性が強くなると、植生的ではなくなる。
写真/中島清一 月刊フローリスト
講師
橋口 学 Manabu Hashiguchi
ドイツ国家認定フロリストマイスター。1997年渡独。国立花き芸術専門学校ヴァイエンシュテファン卒業後にミュンヘンの花店に勤務し、およそ9年間のドイツ滞在を経て帰国。現在は神奈川県秦野市にて「花屋ハシグチアレンジメンツ」を主宰、植物造形理論・実技レッスンを行っている。
http://www.h-arrangements.com
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この記事のライター
植物生活編集部
「植物生活」とは花や植物を中心とした情報をお届けするメディアです。 「NOTHING BUT FLOWERS」をコンセプトに専門的な花や植物の育てかた、飾り方、フラワーアート情報、園芸情報、アレンジメント、おすすめ花屋さん情報などを発信します。