植物生活

地方でまだ誰もしていないことを地域と一緒に開拓する [ 滋賀 ]

2017.8.10

地方でまだ誰もしていないことを地域と一緒に開拓する [ 滋賀 ]

VOID A PART ボイド ア パート

家屋解体時に出た廃ガラスを使って箱を作り、

植栽する「ハコミドリ」。

周防苑子さんが2014年に自宅の一室でスタートした活動は、

多くの人の力を借りて

カフェ、アトリエ、ラボの3つの要素を兼ね備えたスペースを

滋賀県・琵琶湖の湖畔に持つまでになりました。

 

※ハコミドリの記事はコチラ

廃材ガラスのテラリウム

周防さんに聞く テラリウムの作り方

武骨でグリーンと流木が似合う雰囲気の店内。

家具の配置は定期的に変え、新鮮さを出すようにされています。

 

ハコミドリのアトリエ。

廃材の管理、大きなガラスの切り出しなど自宅ではできなかったことが可能に。

 

廃ガラスの中で育つ生命

植物の造形のかっこよさがダイレクトに伝わるテラリウム。

多肉植物は成長が早いので本体を箱の外に出す、

サボテンは箱の内側に収めるなど

植物の性質に合わせて見せ方を変えています。

底には排水用の穴が開いていて、

根腐れの心配はありません。

新居のお祝いなどの贈り物としての利用や

植物店からの問い合わせも多いそうです。

 

 

造形の美しさが伝わる植物標本

ガラスを通してみる植物1本の造形美。

アースカラーのものから華やかな色合いのものまで

お客様の好みに合わせて制作。

「かわいい」より「かっこいい」テイストを打ち出し、

男女問わずさまざまな人が迎え入れやすい雰囲気にしています。

立てても倒しても飾れる自由さと管理がラクな分、

アパレル業界からの引きが強いそうです。

 

 

ある日、周防さんはアトリエにちょうどいい場所を探すため

琵琶湖の周りを原付バイクで走っていました。

作品に使用する廃材の置き場所がない、

自宅では作れる大きさに限界があると感じていたからです。

すると、コンビニの跡地が目に入りました。

近隣の家に話を聞きに行くと、話をしてくれた人がオーナーの親族で、

さらにオーナーは中学の恩師だったそうです。

実は貸し止めになっていたその物件。

不動産屋を訪ねて、物件を見つけて内見依頼という手順を踏んでいれば

借りられなかった物件でした。

ガス、水道がついており、アトリエとして考えていたスペースの約4倍。

しかし、キッチンを作って、

箱の1要素としてハコミドリがあるようなスペースになれば……と

想像は膨らんでいきました。

 

 

周防さんは平日にアトリエのスペースで制作、週末はイベント、キッチン、接客と動いています。

 

 

新しい活動に向けて動き出せたのは

共同代表の牧貴士さんの力も大きいそうです。

牧さんと知り合ったきっかけはツイッターでした。

周防さんと同じ滋賀県へのUターン者で、

フォロワーも多く興味深いアイデアを頻繁に発信していました。

「この人は一体何者なのか?」と思い、

周防さんからコンタクトを取ったそう。

会ってすぐに意気投合し、

一緒に組む方向へ徐々に話が進みました。

 

 

ブックコーナーの一部。担当は彦根の古本店「半月舎」。

いつ来ても新しいものに出会えるように気を配っています。

 

 

生花店に生まれ、いけばなを習うなどしていたからこそ分かる

生花業界の古いしきたりや

地方の閉塞感に疑問を感じていた周防さんは、

牧さんとともに新しいことを打ち出していきます。

 

クラウドファンディングで資金を集めたのもその一つ。

地方で行っている人はまだあまり多くなく、

植物業界においてもウェブで新しい見せ方を提示したいという狙いがありました。

期限内に目標額の100万円が集まり、

最終的には177万円以上もの支援が集まったそうです。

当初は絶対に出ないだろう、

と思い込んでいた大口の20万円のコース3個も完売。

支援してくれたのは店の近隣に住むお年寄りや農家の人だったそう。

そのように活発な動きがあると公式サイトのトップページに長期間、

掲示されることになり

人の目に留まりやすかったと言います。

 

オープン以降はクラウドファンディングの活動で店を知ったという

他府県からのお客様も多いそうです。

「地域創生と言ってさまざまに活動する人はいるけれど、

案外とんがったことをしている人は少ない。

でも、自分がやろうと思っていることが伝わったのかな」

と感じたそう。

また、ボイドアパートに掛かる人件費は0円。

代わりにその日の売り上げの決まったパーセンテージを支払う、

いわゆる「ハコ貸し」のシステムを採用しています。

余剰は返済に充てたり、

今後の展開用としてプールしているそうです。

店舗経営で次第に重くのしかかってくる家賃、

光熱費、人件費といった費用を押さえることができているのも画期的です。

 

 

 

ハコミドリの作業台の様子。

箱のデザインにもよるが、

その場で注文を受けて20分ほどで作り上げることもできます。

 

 

ただ、このような新しい動きが

地方でスムーズに受け入れられたわけではありません。

周防さん曰く、

地方で新しいことをはじめるには「やらないとわかってもらえない」。

オープンにあたり役場から親戚、

商工会議所まで事業計画を説明したそうですが、

人件費がいらない、アトリエとキッチンが共存するという話は

その場に若い人がいても全く理解が得られませんでした。

あまりに話が通じず、時には涙することも。

しかし、完成した姿を見せると

やりたかったことを目で見てやっと理解してもらえました。

理解してもらえるまでのタイムラグを待てないと

地方での出店は難しいかもと周防さんは言います。

スムーズに進められないこともあった反面、

地方ならではの人の温かさ、

距離の近さを感じることも多かったそう。

 

 

天井を剥がしたことで温室のような温かい空間に。

植物を育てるにはもってこいの環境になりました。

 

 

実際に施工にあたったのは滋賀県立大学の環境建築デザイン学科の学生31名。

周防さんが出席したイベントで偶然にも滋賀県立大学の助教と出会い、

アトリエの計画を話したことが縁となりました。

 

滋賀県立大学は、

文部科学省から「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」

の採択を受けていたそう。

大学の授業となったことでその補助金が出て設計士への支払いは0に、

施工費は1/5に押さえることができ、

店のキーとなる本棚やソファ、ギミックにこだわった木製ベンチ、

アトリエに配置された建具を使った棚など、

図面から書き上げ、

実際に製作指揮をとってもらったそうです。

 

 

1個だと椅子に、3個重ねれば階段にもなります。

全部椅子にして並べれば60名のお客様にも対応できるようになるとのこと。

 

 

建具にはめてあったガラスを外し、残った桟の部分を利用して作った棚。

どちらも滋賀県立大学の学生のアイデア。

 

 

グランドオープンから2ヵ月が過ぎた今、

インスタグラムやフェイスブックといったSNSの力が大きいと感じるそう。

10店舗が集まったイベントを行った時のこと、

インスタグラムで告知はしたものの

実はチラシが間に合わず悔やんでいた周防さん。

しかし、フタを開けてみると150名もの人が来店するイベントとなりました。

SNSの可能性、口コミのすごさを体感した出来事となったそうです。

イベントがあるとチラシを作ったり、

フェイスブックに載せたりと店から情報の発信はしているが、

お客様のインスタグラムやフェイスブックでの投稿が

知らず知らずのうちに宣伝となって効果を発揮する力が大きいと言います。

 

 

ハコミドリでスキルを上げ、

ボイドアパートで知り合いを増やす。

琵琶湖の周りにコンビニだった空店舗はまだあるので、

店舗を増やすという話もありますが、

周防さんはさまざまな人の意見を聞きながら

たくさんの人がハコミドリに興味を持ってもらうことにも

力を入れていきたいと考えているそうです。

 

 

※地方創生…地方に人を呼び戻し、各地域の特長を生かして成長し続ける活力を取り戻す取り組みのこと。

 

※クラウドファンディング…ネットを通じて自らの製品、サービス、アイデアなどを提示し、

それに賛同した群衆(crowd)から資金を集める(funding)仕組みのこと。

 

※地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)…自治体と協力し合い、地域の教育、研究などに力を尽くす大学を支援する文部科学省

による取り組みのこと。

 

 

地方開業のPoint!

① 形にしないとわかってもらえない

目に見えるものがないと前例がないものはなかなか伝わりません。

理解してもらえるまで説明&辛抱強く待つこと。あとは形になるように行動あるのみ!

 

② ニュアンスが伝わらないことも

施工会社はまず美しく仕上げることを考えているので、建材がむき出しだったり、

汚れたような加工は十分に説明しないと理解されません。オシャレな空間を作りたい人は要注意。

 

③ 写真スポットは重要

お客様の琴線に触れる=写真を撮ってSNSに上げたくなるような場所を作りましょう。

 

 

教えてくれたフローリスト

周防 苑子 Sonoko Suou

 

滋賀県生まれ。京都の大学を卒業後、東京のPR会社に勤務。4年務めたのち、滋賀県に戻り「ハコミドリ」の活動を開始。

2015年7月に「VOID A PART」をオープン。

 

お店:VOID A PART[ボイド ア パート]

滋賀県彦根市柳川町218-1

http://voidapart.com/ 

 

 

 

text&photo 月刊フローリスト 撮影/タケダトオル

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